ゴルフボールのディンプルの秘密

 地球上でスポーツを行う人間は、そのパフォーマンスを重力と空気によって支配されますから、それらを巧みに利用できることが競技を制するポイントの1つです。特にゴルフはボールの重さに対して空気力の影響が大きく、飛距離を競う上では空気から受ける抗力を小さくすることが最も重要です。

 他のスポーツ、例えば野球でもホームランボールの飛距離は150mくらいであるのに対し、ゴルフでのボールの飛距離は群を抜いています。ドラコン選手権(ドライビングコンテスト、ドライバーで飛距離を競う競技)では500ヤード(450m)を超えますし、トーナメントプロでもトップ選手では平均して300ヤード(270m)を飛ばします。ゴルフボールはなぜそんなに遠くまで飛ぶのでしょうか、また飛距離を伸ばすためディンプルはどのような役割を担うのでしょうか。

 ゴルフクラブはボールの当たる面がやや上向きになっています(ロフト)。インパクト時にボールの下を先に押すことになって、飛び出したボールにはバックスピンがかかります。バックスピンがかかると、ボールの表面をすれ違う空気流の速さは、ボールの上の方が下よりも速くなります(図2)。ボールの上は回転と空気流が同じ向きなのでより速く流れるのに対し、ボールの下では空気流と回転の向きが逆になるからです。空気は流れが速い方が圧力は低くなりますので、ボールの上側の空気圧は低く、下側は空気圧が高くなり、空中でボールに浮き上がろうとする力、揚力が発生します。これをマグナス効果(Magnus effect)と呼びます。

図2 ゴルフボールに働く揚力
図2●ゴルフボールに働く揚力
バックスピンのかかるボールでは、ボール上下で空気流の速さが異なり、圧力差ができることから揚力が生じる。元図出所:宇治橋貞幸「スポーツ工学講義資料」(東京工業大学)
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 飛行機は、翼の形により上下の流線の長さの相違から空気流に速度差が生まれ、圧力差ができて揚力が発生し、これを翼で受けている、とされています。ゴルフでも、空気の抗力と重力に逆らって遠くにボールを飛ばすには、この揚力を最大限に利用するに限ります。

 同様の原理で、スピンの回転軸が傾けば、ボールは左右に曲がります。進行方向に対して傾いていない水平な軸を中心にスウィングできれば純粋なバックスピンボールになりますが、クラブヘッドの軌道がアウトサイド・インやインサイド・アウト、すなわち進行方向に対して少し斜めにボールに入ると、飛び出した後のボールは少し傾いた軸で回転することになります。インパクト時に、フェース面の向きがオープンやクローズドでやや横を向いていても同様です。結果として、横方向の力が働き(揚力が傾き)、フックやスライスなどいろいろな弾道のボールが出てしまいます。

 図3は、飛翔するボールと空気の流れを描いたものです。ボールの表面がディンプルなしの滑面であった場合を上側に、ディンプルがあった場合を下側に、比較しやすいようにイメージしたものです。空気がボールの前方からボールに沿って後ろに流れるとき、表面が滑面ですと、層流境界層という整った流れのまま流線のはく離が始まり、ボールのすぐ後方に渦が発生して大きくなります。この渦部分は圧力が低くなってボールを後ろに引っ張るため、抗力が大きくなります。

図3 ディンプルによってゴルフボール周囲の空気流が変わる
図3●ディンプルによってゴルフボール周囲の空気流が変わる
ボールが飛ぶとき、後方に生じる渦はボールのスピードを減殺する。ディンプルがあると乱流境界層が発達し、流れがボールにまとわりついてはがれにくくなる結果、ボール後方に生じる渦が小さくなる。元図出所:宇治橋貞幸「スポーツ工学講義資料」(東京工業大学)
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 半面、物体の表面を粗にすると、空気の流れに乱れが生じやすくなります。すなわち、層流境界層は乱流境界層に遷移し、滑面と違って流れのはく離が起こりにくく、ボールの後方に発生するうずがやや遠く、小さくなります。従って、後ろに引っ張る抗力も小さくなります。ゴルフボールが飛ぶ速度域においては、空気との摩擦による抗力よりも、圧力による抗力の方がはるかに大きいので、このような結果になります。