競泳を変えた水着の技術
さて、オリンピックという舞台において、テクノロジーの進歩がアスリートのパフォーマンスに最も大きな影響を及ぼした種目は何か? と考えた時、まず思いつくのは、競泳ではないでしょうか。
競泳は、夏季オリンピックの花形種目の一つであり,抵抗の大きい水の中で相手よりコンマ数秒でも速くゴールする。選手が使用できるものは,水着、ゴーグル、キャップのみというシンプルな競技だからこそ、テクノロジーの進歩が水着を進化させれば、泳ぐというパフォーマンスにかなりの影響を与えられるのではないかと、誰もが考えつくことです。
そういうわけで、今回はテクノロジーから少し離れ、古代オリンピックにまつわるお話からスタートさせていただきましが、本コラムでは今回から3回にわたって、「オリンピック競泳水着をテクノロジーする」をお届けします。
特に、2008年北京五輪に登場し、速すぎて一時禁止になった「レーザー・レーサー(LZR Racer)」という高速水着は、皆さまのご記憶に新しいのではないでしょうか。LRを着用した選手が世界記録を大量に連発し、水が苦手で水泳は不得意な筆者でも興味を持つほど、ハイテク水着として当時話題になりました。一方で、LRの効果が全く表れない選手もいたという、大きな謎もありました。
このLRについて、当時の競技会場で実際ご覧になっていた金岡恒治医師(オリンピック水泳選手チームドクターおよび早稲田大学スポーツ科学学術院教授)への取材、文献資料などを基にお伝えします。