2つの水の抵抗:摩擦抵抗と形状抵抗
しかしLRは、なぜこんなにも大きなインパクトを競泳界に与えたのでしょうか。LRという水着の仕組みについて調べてみました。
スイマーは、速く泳ぐためには、推進力と、水中で抵抗を減らすための姿勢保持が重要となります。そして競泳水着には、大きく2つの特性が求められます。水による抵抗を少なくすることであり、もう1つは体の動きを妨げないカッティングやパターンです。
スイマーは泳いでいる時、流速2.0m/秒において60~80Nの水の抵抗を受けています。水着によって水の抵抗削減を考えるには、表面の摩擦抵抗の小さい生地であることと同時に、人間の形状抵抗を小さく保てる=姿勢を保持できる水着が必要となるわけです。その究極の水着が、北京五輪で登場したLRです。
2008年に世界で同時発表された初代LRは、競泳用水着メーカーの英Speedo社が、米航空宇宙局(NASA)やニュージーランドのオタゴ大学、米ANSYS社、オーストラリア国立スポーツ研究所(AIS)、自社研究所であるアクアラボなど多くの企業や団体の協力を得て開発しました。茹でる前のスパゲティーのように芯があると水への抵抗が少ないという発想から、水の抵抗を徹底的に軽減する試みが随所になされていました。
名前の由来にもなっていますが、立体裁断された3枚のナイロン素材「LZR Pulse(レーザーパルス)」を超音波を使って接着した無縫製、つまり縫い目がない水着です。LZR Pulseは極細のナイロン繊維などで織った素材で、繊維間が緻密で軽量かつ撥水性が高く、繊維というよりは紙のような手触りだそうです。これに、水を透過せず伸縮性がほとんどない極薄のポリウレタン素材を張り付け、体を強く締めつけて断面積を小さく保持し、筋肉の凹凸を押さえ、水中での筋肉の振動や皮膚の波打ちも押さえ、水の抵抗低減を徹底的に図りました。