本物のピストルを使った東京五輪

 東京五輪における「ドン」の号砲は、本物の拳銃の空砲を用いておりました。38口径ニューナンブ――警察官が使用しているもので、4丁を警視庁から借用していました。火薬の量で音量が異なるので、佐々木氏を中心に数種類の空砲を事前に何度も試し撃ちし、1年前のプレオリンピック大会で最終的に火薬量を決めました。それはそれはたいへんな苦労だったそうです。

 「ドン」の音とともに、銃口からは閃光が出ます。フィニッシュライン外側にいる計時員は、この閃光を見てストップウオッチを作動させます。競技者は音を聞いてスタートしますが、計時員は閃光を見ています。

 基本的なことですが、東京五輪以前の記録は手動での計測でした。フィニッシュには、タイムを計る計時員と、着順を見る決勝審判員がいます。計時員はトラック外側、決勝審判員はトラックの内側で、それぞれ階段状の台に縦2列に陣取ります(図1)。

図1 フィニッシュ地点に設置した階段状の台に陣取る役員
図1 フィニッシュ地点に設置した階段状の台に陣取る役員
トラック外側が計時員、同内側が決勝審判員。写真提供:野﨑忠信明星大学名誉教授
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 計時員はそれぞれ両手に時計を持ち、2人の競技者の記録を測ります。記録は1人の競技者に対し3個の時計で決めましたので、計時員は8人×3÷2で12人が必要でした。接戦で多くの競技者が固まりになってフィニッシュに入ってくる場合は、タイムを取るのはとても難しく熟練の技が必要でした。

 3人の計時員の計測タイムが同じ場合は問題がありませんが、異なる場合もあります。どうやって1つに決めて掲示していたかといいますと、例えば(10.1、10.2、10.3)であれば真ん中の記録である10.2、(10.1、10.1、10.2)のように2対1のときは多数側である2名の計時10.1とすることが、ルールに記載されています。