もう1つ、表面の仕上げ方についても改良が進んでいますので説明します。ウレタンで表面仕上げされたトラックは、降雨時の水切りが悪く、滑りやすく危険です。そこで「タータン」以来、表面にノンスリップ性を持たせるため、ウレタンチップをトッピング材として付着させる仕上げ方法が主流になっていました(図9)。

図9 トッピング仕上げ
図9 トッピング仕上げ

 しかし、トッピングが摩耗するにつれて“走り”のフィーリングが徐々に変化することから、選手から「トッピング仕上げは、摩耗した時の方がかえって走りやすく、記録を出しやすい」といった声も出ていました。

 この背景には、次のことが考えられます。初期の全天候トラックではトッピング材のサイズは3~4mmでしたが、日本陸上競技連盟が5mm前後と定めて以来、大きめのものが使われるようになっています。大サイズのトッピング材では

[1]スパイクピンが真の表層面を捉えるのをトッピング材が邪魔し、スパイクの掛かりが悪くなる

[2]トッピング材がシューズの底面を宙に浮かすため、不安定な横ブレを生じる

などの問題があることが分かってきました。そのためトッピング材が少し摩耗した方が、上記の問題点が解消され、スパイクと真の表層面の密着性が高まって走りやすくなるというのです。

 トッピングは、硬度や粒径を変化させることで緩衝特性をコントロールできる優れた方法であるため、現在でも多くの競技場で採用されています。一方、摩耗した時の方が走りやすく記録が出やすいという事実を記録向上に結び付けるため、エンボス(ノンスリップ)仕上げ工法と呼ぶ、新設時からトッピングの摩耗した状態を実現した方法も開発されています。滑らかなウレタン表層にエンボス加工を施して仕上げるもので、次のような方法があります。

スプレー工法

図10 スプレー工法による吹き付け仕上げ
図10 スプレー工法による吹き付け仕上げ

 エンボス材をスプレーしてエンボス仕上げを施した上に、トップコート材を塗布します(図10)。

ローラーエンボス工法

図11 ローラーエンボス仕上げ
図11 ローラーエンボス仕上げ

 エンボス材を上塗り層に塗布してローラーで凹凸状に仕上げ、その上にトップコート材を塗布します。「世界陸上2007大阪」の会場である大阪市長居陸上競技場に採用されました(図11)。

 以上のプロセスを経て、全天候トラックを実現するサーフェスは現在に至っておりますが、現在の課題について奥アンツーカの奥 眞純顧問に伺いました。

 「弾性体を素材とした全天候トラックは粘弾性体の性質をもつため、ランニングによる衝撃への走路の緩衝特性が、天然土舗装と全く異なるものであることがスポーツ力学の進歩と共に分かってきました。タ-タン以来50年近い努力により新素材が次々と投入され、全天候トラックは目ざましい進歩を遂げました。しかし、いまだ多様な「走り」の条件を同時に満足させる舗装材は登場しておらず、用途に適した舗装材を選んで使い分けなければならないのが現状です。例えば、短距離走者に適した舗装材と中長距離走者に適した舗装材とでは異なった緩衝特性が望ましいとされます」とのことでした。奥顧問がおっしゃるように、さまざまな走りへのこまやかな対応が、今後の課題であることは納得できます。奥アンツーカはじめ、各社の健闘に期待がかかります。

 次回は、サーフェスの技術の発展とその意味を総合的に振り返り、まとめとしたいと思います。