軽さよりも安全性を優先

 ひと昔前は、ヘルメットは割れてもいいという考え方が主流でした。本体(帽体)が割れることで衝撃を吸収するのが役割だから、というわけです。特に、アイルトン・セナ(Ayrton Senna da Silva)が死亡事故に遭う1994年F1サンマリノ・グランプリ以前は、軽くしてかぶりやすくしてほしい、という海外のドライバーやライダーたちからの軽量化の要求が激しかったといいます。事実、1970~80年代の欧州ではポリカーボネート(PC)素材の1000g程度のヘルメットが売れていました。軽い代わりに、当然保護性能は低いものでした。

 しかし転倒時には、頭が路面や突起物などに何度もぶつかるのが普通です。一度の衝撃で簡単に割れてしまったら、それ以降の衝撃に対処できません。だからアライヘルメットは、軽いことが絶対的価値ではない、帽体は可能なかぎり頑丈であるべきというポリシーを譲りませんでした。そしてアライの主張の通り、現代のヘルメットは簡単には割れないようにするのが常識になりました。

 アライの繊維強化樹脂(FRP)製ヘルメットの質量は、通常で1550~1600gです。炭素繊維樹脂を採用して軽量化を図ったヘルメットでも200gは他のメーカーより重いかもしれませんが、強く頑丈に造ってあります。

 さらに、ヘルメットの形を考慮することで、1カ所にかかる衝撃をできるだけ分散するようにして、1度の衝撃で破壊しないようにしています。理想的な形は球状になりますが、ヘルメットには外を見るための窓が必要ですし、人の頭の形に合わせる必要があるため、完全な球体にはできません。そこで、卵に近い形にしています。   

 厳しい安全規格をクリアしていることは前節で述べましたが、衝撃吸収性能の向上には限界は当然あります。また、厳しいSNELL規格に合格しているといっても、試験での衝突速度の設定は28km/hに過ぎません。実際の二輪車はこの3倍以上の速度で走行していますし、しかも衝撃は速度の2乗に比例します。安全基準を余裕でクリアしたとしても、現実の事故において絶対の安全性を保障できるものではありません。