もちろん、お腹の調子なんて大した話じゃないとは言える。実際、どうやら遺伝らしい耳鳴りが止まない聴力を除けば、筆者は先日の健康診断でオールA判定の健康体だ。少々腹が緩くても我慢しろとのお怒りはごもっともである。
もっとも、ちょっとした体の不調が生活の質を大きく損なうのもまた事実。筆者は持病の鼻炎にずいぶん悩まされた話を記事にしたこともある(こちら)。体のちょっとした不具合には医学もなかなか切り込めていないようで、埒が明かない医療の現場に業を煮やし、来るべきビッグデータ時代に期待をかけたものである。
ところが、ビッグデータという言葉が古臭く感じる今日この頃も、状況は大して変わらない。というより、体重や活動量を測っているだけでは、お腹の具合には到底たどり着けなさそうだ。海外には自分が出した「もの」の写真をアップして採点してもらうサイトがあるらしいが、出力だけをいくら集めても内部状態の推定には限りがある。
確かに、遺伝子検査や新たな測定器/センサーなど、手段はまだまだあるだろう。だとしても頭をよぎるのは、我々は現実を少し甘く見過ぎていたのではないかという予感である。
人体に限らず、人々のネット上での活動が広がるにつれて予測しやすくなるはずだった社会の動きも、昨年から今年にかけて、まさかの展開にハラハラさせられっぱなしだ。英Oxford Dictionaries が選んだ2016年のWord of the Yearは「post-truth(ポスト真実)」(関連サイト)。その定義は「relating to or denoting circumstances in which objective facts are less influential in shaping public opinion than appeals to emotion and personal belief(世論の形成において、感情や信念への訴えかけよりも、客観的な事実の影響力が弱い状況を指す)」という。目に見える事実の代わりに、夥しい数の個人の、うかがい知れない内部状態が世の中を大きく動かすさまは、総数が1014に達するとも言われる腸内細菌(参考文献)がおそらく関与するであろうお腹の調子の掴み所のなさと似ていなくもない。
どうやら風呂敷を広げ過ぎたようだ。現在の自分の悩みは、英国のEU離脱でもトランプ政権の誕生でもない。このところ気にかかるのは、やはりお腹の調子である。下痢が治まったのはいい。ところが今度は、やたらとガスがたまって、お腹が張るようになってしまった。人体の奥深さに恐れ入るばかりである。