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 クルマの走りに多少のこだわりを持っている人であれば、購入を検討しているクルマにどんな変速機が搭載されているか気になるものです。MT(手動変速機)にステップAT(自動変速機)、CVT(無段変速機)、DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)、AMT(自動MT)――それぞれの変速や加速のフィーリングは人によって好みが別れるところだと思います。

 しかし未来のクルマでは、こうした「人それぞれの好み」がなくなってしまうかもしれません。近年のクルマはパワートレーンの電動化が加速していますが、電動化の到達点ともいえる電気自動車(EV)は基本的に変速機が必要ないからです。実際、日産自動車のEV「リーフ」にはエンジン車のような変速機はなく、代わりに減速機を使ってモーターの駆動力を増幅します。

 そもそもクルマに変速機が搭載されているのは、エンジンの「回転速度-トルク特性」とクルマに求められる「駆動力特性」の間にある“溝”を埋めるためです。エンジンは特定の回転速度のときに発揮されるトルクが最大に達し、それ以外では急激にトルクが落ちます。一方、クルマは発進や加速時に大きな駆動力を必要とし、一定の速度に達すると小さな駆動力でも速度を落とさずに走行できます。クルマに求められるこのような駆動力特性を実現するため、エンジン車は変速機が必要なのです。エンジンのトルクが出る回転域を保ちつつ、変速機で減速比を変化させることでさまざまな走行条件に対応します。

 これに対してモーターは、停止状態から一定の回転速度までは最大トルクを保ち、その速度以上になるとトルクが落ちます。こうした回転速度-トルク特性はクルマに求められる駆動力特性に近いので、EVはモーターに固定段の減速機を付けるだけでさまざまな走行条件に対応した走りができます。

 このように変速機は、パワートレーンの電動化でその存在意義が問われる局面に差し掛かっています。それは、エンジンを搭載するハイブリッド車(HEV)でも、しかり。EV時代に向けてモーター主導で走行するのであればエンジンは脇役となるので、変速機の役割は少なくなるからです。電動化時代でも必要とされる変速機とは果たしてどのようなものか――新たな変速機を模索する各社の取り組みを日経Automotiveの4月号の特集で取り上げました。

 ちなみに、今回の特集で取材した人に「EVに変速機は必要になりますか?」と質問したところ、半数近くが「ほとんどのEVは必要ないと思う」という答えでした。EVはモーターの逆起電力などの問題があるので、変速機がないと最高速度を上げにくいといった課題があります。しかし「日常利用のEVは百数十km/h程度出せれば十分なので、重い変速機をわざわざコストをかけて付ける必要はない」とのこと。確かに「ごもっとも」な意見で、反論の余地はないのですが、変速時の回転数の上下動や加速感に高揚感を覚える身としては、少し残念に感じます。

 ただ、一部ではありますが「運転の楽しさを高めるために変速機を付けたい」といった声もありました。特にスポーツ車ではこうした意見が根強くあるそうです。例えば米BorgWarner社は、ある自動車メーカーとの共同開発で変速機能を備えるEVを2017年内に試作するとのこと。どんな変速機を用いるかは教えてもらえませんでしたが、「EVならでは」といえる変速時のフィーリングや加速感に期待したいところです。