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 子供の頃から「野球小僧」だった私。学生時代はもちろん、社会人になってからは地元の草野球チームに加わり、毎週末、野球を満喫していました。そんなある時、チームメイトの一人が真新しいグラブを携えて、グラウンドにさっそうと登場。なにやら自慢げな顔です。そのグラブを見ると、「信義」という刺しゅうが入っているではありませんか!

 ここでピンと来た人は、相当の野球小僧かと思います。信義とは、グラブ職人で有名な元ミズノの坪田信義さんのことです。イチロー選手や松井秀喜さんなど多数のプロ野球選手たちのグラブを作っていた職人といえば、ご存じの方が多いかもしれません。

 私が子供の時、ミズノのグラブは多くの子供たちにとって憧れの製品でした。大人になってからは、ミズノのグラブの中でも特に坪田さん作のグラブは垂涎の的。ただ、プロ野球選手が使うものと思っており、実際にも遠い存在であったため、実物を見たことはありませんでした。ですので、そのグラブをプロ野球選手ではなく、身近にいる草野球のチームメイトが買った、いや買えた、入手したということに非常に驚いたのでした。実物を手にすると、妙に神々しく見えたのを覚えています。

 坪田さんは1998年に労働省(現在は厚生労働省)が実施する表彰制度「卓越した技能者(現代の名工)」の一人に選ばれています。「野球グラブ製造において、工程全般に精通しているだけでなく、プロ野球の選手や米大リーグ選手からの特別注文品も多数製作するなど卓越した技能を有している」ことが選出理由でした。

 そんな坪田さんは2008年に「引退」しましたが、グラブ職人として強いこだわりがあったはず。私はそう思っていたのですが、自分のこだわりを全面に押し出してはダメで、顧客である野球選手の声に耳を傾け、それにしっかり応えるのが大切だと考えていたようです。自分のこだわりを押しとどめるということが、坪田さんのこだわりだったと言っていいのかもしれません。

 実は「日経ものづくり」4月号(4月1日発行)の特集では、第一線で活躍し、熱いものづくり魂を持つ11人の技術者たちにインタビューして、ものづくりに対するご自分のこだわりや信念などを伺いました。いずれも坪田さんに負けず劣らずの方々で、現代の名工に選ばれた方も登場します。新年度を迎えるに当たってぜひご覧いただき、熱いものづくり魂に触れるとともに、大いに刺激を受けていただければ…と思っております。