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 「同じ成果を上げているのに、われわれの会社のことは御社のメディアで紹介してもらえないのですか」。あるツールのユーザー会を取材した際に、大手A社の若いエンジニアからこう質問された。答えに窮した。というのも、このA社は記者にとっては悩みのタネの1つだからだ。ユーザー会では成果を積極的に発表するのだが、メディア(もしかしたら我々のメディアだけかもしれないが)に発表内容を記事として紹介することに関しては固辞する。その辺りの事情を若手のエンジニアが知らないわけだから、情報公開のルールとして全社に定着しているわけではなさそうだ。

 冒頭の質問を受けたのは5年以上も前のことだが、それを思い出したのは、最近、メーカーの不祥事が相次いでいるからだ。「他人の不幸は蜜の味」と言われるように、不祥事の記事は日経テクノロジーオンラインでも閲読率が高い。ただし、それだけではないだろう。高見の見物をしているというよりも、明日は我が身(我が社)と心配されている読者が意外に多いと思われる。多くの不祥事は、最初は小さな不祥事だ。闇から闇に葬られているうちに増殖し、何かの拍子(例えば、内部告発)で表の世界で大爆発となる。小さいうちに対応できていれば、多くのメディアが殺到するような不祥事にならない。

 大きな不祥事を防ぐ手段の1つが上手な情報公開だろう。欧米の企業を取材したときと日本の企業を取材したときに感じる大きな差が、情報公開への姿勢である。筆者が取材した範囲では、一般に欧米企業は、公開すべき情報と公開すべきでない情報、誰(どの地位の社員)が公開すべきかなど、情報公開に対して検討が十分に行われており、ルール化している場合も少なくない。それに対して、日本企業は、場当たり的なことが多いように感じる。冒頭の若手のエンジニアのケースでは、そのエンジニアが所属する部や課の長の判断だと推察される。

 どうすれば、情報公開が上手になるのか。記者として思うのは、情報公開の機会を増やすことである。そうは言っても、そのために不祥事を探すというのは現実的でない。それならば、成果の発表を積極的に行うことから始めてみてはどうだろう。成果ならば、エンジニア本人だけでなく、部や部門、会社の志気も上がる。成果発表でメディア慣れしていれば、万一不祥事があったときでも、以前よりは上手に情報公開ができるだろう。