自由度に乏しいのに、自由な発想
そんな自由度に乏しい国・地域なのに、日本には無いような、前例にとらわれない自由な発想に出会うことが多く、貪欲な姿勢やバイタリティー、したたかさの源泉になっていると感じる。その象徴として、最後に、日経エレクトロニクス誌でも紹介した米Tesla Motors社の高級電気自動車(EV)「Model S」にまつわる話を紹介したい。(日経エレクトロニクス読者の皆様には、こちらで全文をお読みいただけます)
筆者は今年の3月に北京でModel Sの実車に乗った。空港からホテルまでの移動に、Model Sのタクシーを利用した。北京のような中国の大都市では、タクシーの配車アプリを多くの人が使っている。提携先のタクシーがスマートフォン上に表示され、運転手との交渉が成立すると、タクシーがやってくる。北京の空港に到着し、中国人の同僚がアプリを立ち上げると、タクシーリストの中にTesla社のModel Sがあった。早速、呼び寄せることにした。
タクシーの配車アプリは欧米で利用が始まり、最近は日本や中国にも広がっている。特に中国では2014年に、大ブームになった。中国の大都市ではタクシーの乗車拒否がひどいので、何とか乗せてもらおうと乗客がチップをはずむ。そのチップの金額を競い合う機能が配車アプリに組み込まれたのが、ブームの契機になった。タクシーを捕まえたい市民がこぞって配車アプリを使い出したのだ。その後、乗車拒否とチップの値上がりに拍車が掛かり社会問題になるのだが、“チップのオークション”のようなサービスを導入し、配車アプリという新技術の価値を膨らませようとする、前例にとらわれない発想と貪欲な姿勢には中国人のバイタリティーを感じた。
Tesla社のModel Sに関してはもう1つ、中国人のバイタリティーに驚かされた話がある。中国で最初にModel Sを購入した人の話だ。購入当初、認可が下りず、中国国内の公道を走ることができないでいた。
そこで彼は、閑古鳥の鳴く展示会にModel Sを貸し出すサービスを始める。中国では入場無料でもガラガラの展示会があり、主催者は頭を悩ませていた。こうした展示会にModel Sを貸し出したところ、どこでも黒山の人だかりができて、主催者は大喜び。このサービスは大繁盛した。彼は、あっという間に購入資金を回収し、さらに儲かったので2台目を購入したという。