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 「ことづくり」は記事によっても書籍によっても資料によっても定義は異なりますし、同じ記事で言葉に触れた人がそれぞれ違う感想を抱く言葉の代表です。だからこそ、便利なのです。何だか、分かった気にさせることができるので。恐らく、これが官庁関連のレポートに多く使われる理由でもあります。

 ですから、抽象論ではなかなか理解は深まらず、「これがことづくりだ」と具体例で語る必要があります。その一つの側面に具体例で迫っている記事が、アクセスランキングで3位に入っています。衰退が続く、生まれ故郷の伝統工芸の復活に尽力する若きデザイナーの奮闘を、アイキットソリューションズの生島大嗣さんが活写しています。

 見出しにもなっている「我々は何ひとつ新しいものを作っていない」は、その若きデザイナー、小林新也さんの言葉です。小林さんは、兵庫県小野市で播州刃物のプロデュースに活躍しています。小林さんは、「我々は何ひとつ新しいものを作っていない」の後に、大切なことは「どう伝えるかだ」と続けています。つまり、商品を買う人に商品の良さを伝える工夫が「ことづくり」の大きな要素であると、この記事では伝えています。

厳しい言葉の裏に伝統工芸への愛

 「何も新しいものを作っていない」などと頭ごなしに言われたら、汗水流して作っている方からしたらカチンときてしまうでしょう。でも、小林さんの言葉の裏には、播州刃物をはじめとする伝統工芸への愛が隠れています。

 日本の伝統的な刃物、鋏(はさみ)や日本包丁などは、長い歴史の中で道具としての機能性の進化が行き着くところまで行き着いている。究極ともいえる優れた「ものづくり」です。

 しかし、どんなに優れた究極であっても、現代社会の生活スタイルの中では使われる機会が減る一方になっています。優れた商品を世の中に広く知らしめるには、まずは「何も新しいものを作っていない」という現状認識を土台にしたうえで、「では、どう認知させるか」に知恵をひねる必要がある。何やら哲学的ですが、「新しいものを作るためには、自分たちが新しいものを作っていないと認識しなければならない」というわけです。

 小林さんが手掛けた取り組みの詳細については記事をご一読いただくとして、興味深かったのは小林さんが気づいた播州刃物の衰退の原因でした。

 「関係者に現状を変えようとする意識がない」。ビジネスとしても商品の機能性としても、あまりにも完成されてしまったが故に、昔ながらのユーザー像に固執し、そこから変えようとする意識がないということです。

長い歴史の中で日本の刃物はデザインされ尽くされています。だから、商品の機能性自体を大きく変えることはできない。にもかかわらず、今の産地のものづくりはエンドユーザーを見ていません。デザイナーとして産地を観察して見えてきたのはその部分でした」と、小林さんは指摘します。