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固定費の回収状況を知るための指標がない

――それは意外です。経営者は固定費に敏感なものだと思っていました。高額の生産設備を導入するときなど、経営者が決裁しますよね。

北山 確かに決裁はしますが、結局は必要だから購入するわけで、その時点では費用を回収できるかどうか分かりません。生産設備を購入したい人は、決裁のハンコを押してもらうために、「この生産設備を導入すると、この製品がこれだけ売れるし、別の製品にも転用できるので、8年で回収できます」というような“きれいな絵”を描きます。それが必ずしも悪いわけではありません。将来を完全に予測することは不可能ですから、その通りにいかないこともあるでしょう。回収できるかどうか、最終的には経営者が判断すればいいと思います。

 問題は、その後です。いったん買ってしまった生産設備(固定費)は、それを買ってよかったのかどうかなど誰も判断できません。だからこそ使い倒すという徹底した号令が要るのだと思います。

 Apple社のiPhoneも初代機の発売から5年間は画面サイズを変えませんでした。市場で「画面が小さい」と酷評を受け、その間に大画面化を進めた韓国Samsung Electronics社にシェアを奪われました。iPhoneも大画面化するだけなら難しくなかったのでしょうが、あえて“変えない”という制約を設け、別の部分で競争力を高めるというマネジメントにかじを切ったわけです。ニーズと制約のはざまに競争力が生まれるといわれますが、Apple社は固定費に制約を設けることで、もうけの仕組みを構築できたのだと思います。

 そのようなマネジメントを実践するには、投資した固定費をどれぐらい回収しているのか、常に意識していく必要があります。しかし、経営者が見ている資料にそれを知るための指標がないのです。

――ないのですか。

北山 出てきません。会計制度や原価計算に問題があり、見えないのです。これでは、固定費を管理できるわけがありません。

 最大の問題は、固定費を細かく分割して変動費と同様に扱っていることです。多くの企業では、製品ごとの採算を見るために、「製品別原価計算」という手法を用いています。つまり、製品1個当たりの原価を見るわけです。

 例えば、ある製品を造るのに1億円の生産設備を使っていたとして、製品1個当たりの原価を求めたい場合、全体でこれだけ造る予定だからいくらとか、1個造るのにこれだけの時間がかかるからいくらとか、そういった形で固定費を細かく刻んでいきます。ところが、それによって本当に1億円を回収できたのかという視点が抜け落ち、とにかく刻んだ数字をコストとして積み上げればいいという話にすり替わってしまうのです。固定費を負担させる計算ばかりで、回収の計算をしていないのです。