「Monitoring」と「Scanning」
当初気にもかけていなかった小さな変化の中には、時としてうねりを伴って事業環境の変化を引き起こすものがあり、それは企業に大きな事業機会をもたらす。一方で、気づくのが遅れた企業には容赦なく敗者の烙印が押されていく。そのため、常に社会で起きている小さな変化に気を配れと人は言うが、それは口で言うほど簡単なことではない。
前回お話ししたように、計画実行時には、注意すべき視点を共有して戦略的に市場を観察する業務が必要となる*1。
だが、環境変化は都合よくその市場観察のレーダーで捕捉できる範囲だけで起きるとは限らない。企業には、過去の経験で蓄積された多層的な「知識領域」が存在する。
現業に直接寄与している知識領域が内側の2層、そして注意して市場観察をしている領域がその外側にある。どんな組織でも、この3重円の内側で起きた事件に関しては高い動体視力を発揮するが、1ミリでもその外側に出ると、途端に視力が低下する。実は、この外側に果てしなく広がる知らない世界で起きている変化もまた重要なのだ。
こうした変化の中には、先程の電子レンジの出現にも似た、不連続な変化を引き起こす事件が多く含まれている。そのことが、事業環境を思いがけない方向に変化させるのである。私たちはそれを「変化の予兆」と呼ぶ。
このような変化が変化を呼ぶ連鎖に気付かず、事業計画に致命的なダメージを負って競争優位を失ったプレーヤーたちがどれほどいただろう。それを知っているからこそ、ある人たちは周囲の人たちに声をかけ、とにかくたくさんの情報を収集しようと努力する。その気持ちは痛いほど分かる。ただ残念なことに、単に全方位的な収集を目的とした活動は、情報洪水を招き関係者を疲弊させるだけだ。まず長続きしない。
石油ショックの記憶も新しかった1970年代後半に、この問題に気付いた米Strategic Business Insights(SBI)社は、クライアント企業が、各企業の「市場観察レーダーの外側」で起きている「変化の予兆」に気付くための市場観察を、通常の市場観察である「Monitoring」と区別して「Scanning」と呼び、ある方法論を構築した。
それは、今起きている「変化の予兆」の発見に集中するブレストを実施し、発見した予兆をビジネスとの関連という文脈で記憶し続けるだけの至って簡単な方法だ。参加するのは、さまざまな分野で活動するメンバーで、それぞれの担当分野で発見した新しい変化に関する気付きについて発表する。これをメンバーが共有しながら、共にその変化の持つ意味や理由について考え、未来の可能性について議論する。実際にやってみると楽しく継続しやすい方法である。