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1企業では不可能

 これまで、無人運転の実用化は、早くても2025年以降とされており、監視制御という条件付きとはいえ、2020年の無人車両による移動サービスを提供するという目標は、当初より5年以上前倒しになった格好です。これまで自動運転の実用化においては、技術よりも法整備が足かせになるという見方が強かったのですが、法的な枠組みの構築が予想以上のスピードで進む現状に、現在はむしろ技術がどこまで追いついていけるのかを不安視する声が強くなっています。

 確かに、自動運転車において「判断」を担うコンピュータは現在、急速な進化を遂げています。それが「人工知能」の発展です。「機械学習」や、それを発展させた「ディープラーニング」と呼ばれる手法の登場により、画像や音声などの認識率が飛躍的に向上し、他の車両はもちろんのこと、歩行者や自転車を従来の手法よりも格段に精度良く認識することが可能になってきました。

 単に歩行者を認識するだけでなく、歩道にいる歩行者が道路を横断しようとしているのか、それとも歩道を歩き続けるのかといった、歩行者のふるまいを推定するところまで技術的に可能になりつつあります。しかし、そうした機能を実現する人工知能を開発することは容易ではありません。

 ある技術セミナーで、完成車メーカーのソフトウエア開発の責任者は「完全自動運転の実用化は、どれほど巨大な企業でも1社では不可能で、複数の企業が協力する必要がある」として、企業の枠を超えた開発体制の構築を訴えました。完全自動運転技術を実現するためのソフトウエアは、これまでに自動車に搭載されたソフトウエアに比べて圧倒的に規模が大きく、計算量は膨大で、しかも誤動作は許されないという難しさがあります。自動運転システムの開発を担う人材は、今後ますます必要とされるようになります。

 また、自動運転車では、カメラ、ミリ波レーダー、各種のセンサーなど、これまでになかった多くのデバイスや、高度な半導体を搭載する必要があります。これらのデバイスの性能を試験するのに、いちいち完成車メーカーに頼るわけには行かず、部品メーカーも自ら自動運転の実験車両を製作し、これに自社製品を搭載しての試験を実施することが必要になるでしょう。ここでも、多くの自動運転人材が必要とされることになります。

図2●DeNAとヤマト運輸が実験始める「ロボネコヤマト」
図2●DeNAとヤマト運輸が実験始める「ロボネコヤマト」
2017年から実用実験を始める。ディー・エヌ・エー(DeNA)の自動運転関連のサービス設計ノウハウと、ヤマト運輸の物流ネットワークを組み合わせた、新たな物流サービスの実現を目指す(
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 しかも、自動運転技術を必要とするのは、完成車メーカーや部品メーカーにとどまりません。もし人間のドライバーを必要としない完全な自動運転が実現すれば、私たちのクルマの利用シーンは大きく変わるでしょう。「スマートフォンなどで呼び出せばどこにでも来てくれる」「どこで乗り捨ててもいい」「人数や、用途に応じてそれに適した車種を自由に利用できる」といった「無人タクシー」のサービスが一般化すると予測されます。高速道路を走る長距離トラックも、宅配便を配達する小型トラックでも、運転手のいない車両が走りまわることが普通の光景になるはずです(図2)。

 そうした世界で、クルマはハードウエアの性能だけでなく、そのクルマに搭載された情報端末によって提供されるサービスやエンターテインメントによって評価されることになります。例えば、「その無人タクシーで見られる映画プログラムによって、どの企業の無人タクシーに乗るかを決める」ということが起こるでしょう。例えば、クルマの動きに連動してゲーム画面が変化するというような、クルマの動きと結びついた新しいエンターテインメントが登場する可能性があります。この場合、そうしたゲームを開発する企業にさえ、自動運転技術の理解が必要になるでしょう。

 すでに海外の完成車メーカーはこうした「ビジネスモデル転換」を意識し始めています。欧米の完成車メーカーはカーシェアリングサービスを拡大するほか、米General Motors(GM)社がスマートフォンを使ったライドシェアサービスを展開する米Lyft社に出資するなど、新しいモビリティー社会に向けた「備え」を進めているのです。トヨタ自動車も最近になって、ライドシェアサービス最大手の米Uber社への出資を発表しました。Lyft社もUber社も自動運転技術の開発を独自に進めており、もはや自動運転技術が完成車メーカーだけのものでないことは明白です。

 日本の自動車業界はこれまで、完成車メーカーからの指示に忠実にこたえていくことが生き残りの道でした。しかし自動運転の時代には、自動車産業の構造はこれまで「ピラミッド型」から、様々なプレーヤーが企業の規模に関係なく対等につながる「ネットワーク型」へと移行していくと考えられます。そうした競争環境では「提案力」こそが生き残りのカギとなります。自動運転技術を知ることは、これからの自動車産業で生き残っていくために必須の「パスポート」になるでしょう。