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「未来は不確実である」という現実を前提にする

 私たちは、「戦略立案は不確実性に溢れる未来に対してなされる意思決定なのに、すべて過去から得られた知識を元になされなければならないやっかいな作業」だと認識している。皆さん、本当は心のどこかで、世の中には未来を予測して儲けている奴らがいるのではないかと、本気で疑ったりしてはしていないだろうか。

 ただ、私の知る限り、20世紀の半ばに世界中で未来予測に関する議論が行われていたころから今まで、10年後の未来を完璧に言い当てられた人など1人もいない。当時、米スタンフォード研究所(現在は、非営利法人のSRI International)で同様の研究を行っていたチームの至った結論は、「正確に未来を予測することはできない。だから、1点の予測に頼った戦略立案は危険である」というものだった。

 彼らは、「未来はあくまで不確実である」ということを受け入れ、複数のシナリオを用いるアプローチを構築した。彼らの後輩として今、シナリオプランニングに取り組むことができる私たちは、その時の彼らの決断に感謝と敬意を払わずにはいられない。

 シナリオをベースにした戦略議論は、未来を正確に予測することに集中するのではなく、自分たちの戦略実行を取り巻く未来を形作っていく変化の要因と、その要因の変化の広がりの可能性を理解することに時間を使う。

 そうすることによって、ある特定の戦略課題にフォーカスしている一方で弾力性のある未来感を共有でき、また、特定の方向性を持っている一方で柔軟性のある戦略を構築することができるのだ。

 このように不確実性を受け入れ、複数の未来の可能性を前提に進むシナリオアプローチは、「1点予測」(Single-Point Forecast)に基づく計画立案の対極にある戦略的思考方法と言える。(図1

図1:1点予測は危険
図1:1点予測は危険
(図:Strategic Business Insights社)
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 実際、1点予測を前提とした計画立案を、企画担当者が代々受け継いで実行している組織は、今でも多く存在する。驚くことに、数年もすれば前提とした条件が大きく変わり始めることを、社内の誰もが知っているのにも関わらず、当たらない数字や、社会構造を予測することに毎年多くの組織で高額な企画担当者の貴重な時間を浪費する伝統が引き継がれているのだ。

 こうした現場では、自分たちの戦略がなぜ正解なのかを説明するために資料を作成するわけだから、出来上がった未来感は、多かれ少なかれ計画にゴーサインを出す目的でまとめられる心地の良いものになる。