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作るだけでなく活用する

 私にシナリオの手ほどきを施してくれたシリコンバレーの上司は、よくこう言って私たちを戒める。

「シナリオ作成で終わってしまうプロジェクトは、非常に高価なエンターテイメントに過ぎない」

 それを英語でどう表現したかは覚えていないが、要するに「もったいないから絵に描いた餅にはするな」ということだ。このあと完成したシナリオは、意思決定者たちが未来を構成する要素の変化が自分たちに与える影響の意味を認識し、自らの戦略の脆弱性と強みを理解したうえで、追加戦略を練るためのツールとして利用されていく。しつこいようだが、この「Force」の束で表現された複数のシナリオは、将来襲ってくる可能性のある恐怖体験や、新たに生まれてくる可能性のある希望を仮体験するための道具として準備されたものであって、決して未来予測ではない。

 実際、シナリオプランニングを完全な形で実行しようとするには、思い切った工数を振り向けなければならない。それ故に、シナリオが必要になる局面は、新事業戦略立案や、技術開発戦略立案など、中長期的展望が求められ、不確実要因の存在により幾つもの難しい選択や、高度な意思決定が求められる機会に偏る。ただ、シナリオプランニングの精神や基本的な概念は、実際にプロジェクトを動かしている期間だけ意識すればよいものではない。それは、日常業務の現場でも役に立つ重要なメッセージを含んでいる。

平時にも活きるシナリオプランニングの精神

 もう、ご理解いただけたと思うが、事業計画の推進であれ、研究計画の推進であれ、いくら独りよがりの未来予測にしがみついたところで、その通りに実行できることはない。未来は不確実なのだ。であれば「内部の進捗管理のみに気を取られた計画実行がいかに危ういか」ということを、組織の皆に気付かせる役割を、誰かが担わなければならない。

 もし、今日のこの1文から何かを感じ取って頂いたとしたら、内部の進捗管理と同じ重さと頻度で、観察視点を共有して外的環境のモニタリングを始める提案を、ぜひあなたからされることをお勧めする。その時には、先に説明申し上げた「Impact」と「Uncertainty」のチャートを思い出して頂きたい。

 次の月例会議でも、そろそろ始まる来年度の計画見直しの機会でもよい。あのチャートをホワイトボードに掲げ、関係者総出で、心配事の棚卸をするところから始めてご覧になればよい。2~3時間もすれば、同じ言葉で懸念事項が共有されるだけでなく、主な心配事がチャートに分散し、外的環境の観察項目の優先順位と、戦略的な観察視点が合意されていくに違いない。

 賛同して頂ける皆さんは、それぞれの持ち場で小さく1歩を踏み出すことで、シナリオ的思考方法を伝道するエバンジェリストの1人になっていただきたい。もう私たちは、仲間だ。合言葉は…

「通念を疑え! 未来は変化の先にある」

 お忘れなく。

 次回は、こうした市場観察でもカバーすることのできない、観察視点の外にある重要な変化に気付く方法論「Scan」についてお話ししようと思う。

高内 章(たかうち・あきら)
米Strategic Business Insights社
Vice President/Intelligence Evangelist
京都大学工学部卒業後、鐘紡に研究員として入社。その後、技術調査部門を経て、鐘紡地球環境憲章立案、研究企画、新事業開発などの業務に従事する。1999年に米国SRI Consulting社のBusiness Intelligence Center(現Strategic Business Insights社)移籍後は、Intelligence Evangelistとして、広範な産業分野のクライアントと共に変化の予兆を捉える一連の活動を発展させる一方、シナリオプランニングや事業機会探索な ど、未来の不確実性に対峙して長期的な事業開発に取り組む企画担当者をサポートするプロジェクトを、数多く手がけている。