生体情報センシング分野の事業の場合、何から手をつけて良いのか、未参入企業は初期の検討だけで立ち止まってしまうことが多い。しかし、それは何の知識もないゼロの状態であるからに他ならない。ゼロから1(イチ)の状態に導かれれば、そこからアイディアが生まれ、1が100に発展することもある。
医療機器の中核司令塔ともいえるセンサー
現代ではあまり使われなくなったが、“Man-Machine Interface”という言葉がある。医療機器にとっては、人体と機器、また機器と人体の接触部を表す。前者は主にモニターや診断装置のセンサーであり、後者は治療器のトランスデューサなどを指す。実は、医療機器にとっての主要部分であり、ここが機器の中核司令塔ともいえる。センサーの性能が医療機器本体の性能を左右するといってもいいからだ。
人体の情報計測、つまり生体情報センシングを行うには、物理・化学などの原理原則や数値モデルを当てはめて、その情報を収集ことが基本となる。だが、なぜかうまくいかない。物理的法則を備えているはずと考える人体は、実は「生物」であり、いわば“一品一葉”である。それゆえに、個人個人の的確なパラメータが特定できず、完全な数値モデルに当てはまらないことが要因だ。
計測環境一つとっても、季節や温湿度、標高(気圧)、電磁的環境、あるいは着衣など、それぞれのパラメータが不定である。ただし、理論的な数値モデルを“ソコソコ”の計測段階まで持っていくことはできる。それは種々の改善を重ね、不安定なパラメータ(ノイズ成分)を取り除く経験をフィードバックし、計測回路に加えることまではそれほど難しいことではない。ところが、ここから先に医療機器開発の難所と解決のためのノウハウがある。
医療機器業界への参入を足踏みしている企業は少なくない。しかも、自社開発を進めながら、製品化へのためらいから、もう一歩を踏み出せない企業も多い。あるいは、自社独自の基礎技術を応用し、取得したデータへ付加価値をつけることを模索しているケースも多々ある。
例えば、単純な脈波の波形解析から、血管の情報を計測できる技術の開発などに傾注しているケースもある。波形解析が得意な企業にとっては、「付加価値」をつけることで、新たな医療技術導入へのチャンスにもなるからだ。そのために必要な基礎技術を習得するためには、先人達の知恵を拝借するほうが得策だろう。