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 「富士フイルムじゃないのか」――。2016年3月9日、東芝は医療機器子会社の東芝メディカルシステムズの売却について、キヤノンに独占交渉権を与えることを決定しました(関連記事)。交渉権の期限である3月18日までに最終合意する見通しです。

 下馬評が高かったのは、医療分野で既に大きなプレゼンスを持つ富士フイルムでした。キヤノンという選択はやや意外でしたが、「企業価値評価額、手続きの確実性などの観点から総合的に評価した」(東芝)としています。7000億円を超えるとも憶測されるキヤノンの提示額や、独占禁止法などへの抵触懸念が少なかったことなどが決め手となったようです。

 同じ日の夜、英国からはこんなニュースが流れてきました。「5人目のビートルズ」とも称される、音楽プロデューサーのジョージ・マーティン(George Martin)氏が90歳で亡くなった――。同氏は、ビートルズ(The Beatles)のほとんどの楽曲のプロデュースを手掛けた人物として知られています。

 まったく関係なさそうな二つのニュースですが、「奇縁」ともいうべき不思議なつながりを感じました。両者を結び付けるキーワードは「X線CT装置」です。比較的よく知られていますが、こんなエピソードがあります。

 医学における画像診断のあり方を一変させた、X線CT装置。1970年代前半、世界初の商用装置を開発したのは英国の大手レコード会社、EMI社でした。そしてその開発が始まった1960年代、EMI社に所属していたアーティストの代表がビートルズだった。そのため、ビートルズの莫大なレコード売り上げの収益の一部がX線CT装置の開発に回され、結果として同装置を商用にまでこぎつけることができたとされています。発明当時のX線CT装置は「EMIスキャナ」と呼ばれていました。

 そして1970年代半ば、EMIスキャナの日本における販売契約を結んだのが、東芝メディカルシステムズの前身、東芝メディカルだったのです。東芝とEMI社は当時、レコード事業で共同出資会社「東芝EMI」を立ち上げていましたから、そのつながりも影響したのかもしれません。東芝EMIは2012年にユニバーサル ミュージックグループに吸収されましたが、長く日本における「ビートルズのレーベル」として有名でした。

 東芝メディカルは1975年にEMIスキャナを日本で発売。以来、X線CT装置の国産化などの取り組みで、業界をリードしてきました。X線CT装置における現在の同社の強さは、こうした歴史に裏付けられたものだと言えるでしょう。東芝メディカルの原点には「EMI社」があり、マーティン氏がプロデューサーを務めた「ビートルズ」の存在があったのです。

 マーティン氏は亡くなりましたが、彼がビートルズの4人とともに遺した音楽はこれからも世界中で聴かれつづけるでしょう。そして、東芝メディカルはキヤノン傘下で新たに出発する見込みです。「EMIスキャナ」のように医療の歴史を塗り替える機器を、同社が新しい体制のもとで生み出してくれることを願います。