PR

 先週日曜日に横浜市で開催された日本薬学会第136年会を取材してきました。その中で「剤形の多様性は、患者のアドヒアランス向上と医療経済に貢献できるか?」と題するシンポジウムを拝聴したのですが、参加者が非常に多く、この話題に対する関心が高いことに少しびっくりしました。

 剤形の工夫や変更は、アドヒアランスの向上や誤用の防止といった医薬品の適正使用につながるものであり、結果として医療費効率化につながるというのがシンポジウムの全体的なテーマです。従来、どちらかというと製品のライフサイクルマネジメントの一環として語られることの多かった「剤形追加」ですが、医療費効率化という観点でもっと積極的に取り組んでいくべきというのは、まさにその通りだと思います。

 シンポジウムでも紹介されていましたが、米Aprecia社が開発した3Dプリント技術で製造した製剤が先日、米食品医薬品局から承認を取得しました。3Dプリンターを用いることで、口腔内で速やかに崩壊する錠剤にすることができ、嚥下困難の患者のアドヒアランスを向上させるというものです(日経バイオテクの関連記事)。

 今年の調剤報酬改定の議論の中で、残薬の問題が大きくクローズアップされ、重複受診・重複投薬や、長期処方の問題が議論されていましたが、アドヒアランスが悪い医薬品であることも、残薬が発生する理由の1つに挙げられます。

 アドヒアランスの向上に寄与する技術として注目されるのが、ICチップを埋め込んだスマートピルです。昨年、大塚製薬と米Proteus Digital Health社が、「エビリファイ」(アリピプラゾール)に小型チップを埋め込んだ製剤を開発し、FDAがその承認申請を受理したとして話題になっていました。この技術により、医療者や介護者、家族などが患者の服薬状況を正確に把握し、患者に働き掛けることでアドヒアランスが向上して治療効果が高まり、ひいては医療費を削減できるというわけです(日経デジタルヘルスの関連記事)。

 製剤技術だけでなく、こうしたデジタル分野での技術革新はアドヒアランス向上に貢献することが期待されます。そのような観点から、バイエル薬品ではデジタルヘルスに関するオープンイノベーションの公募を実施するに当たり、「アドヒアランスを改善する方法」をテーマに設定しています(日経デジタルヘルスの関連記事)。

 医療費をいかに効率化するかが世界各国で課題となる中で、既存の医薬品に様々な分野での技術革新を組み合わせて効率化を図るというのは望ましいことですが、1つ気を付けなければならないのは、医療費の効率化にどれだけ寄与するのかをきっちりと評価していくことです。シンポジウムでもこのことが議論され、「剤形の多様化は手段であって目的ではない」と指摘されていました。

 確かに、剤形追加や、デジタル技術との組み合わせ製品の開発によって製品寿命が伸びれば、その企業としてはいいのかもしれませんが、その研究開発コストや、製品の種類が増えることに伴う流通コストなどがかえって医療費を膨らませる結果となっては、効率化という観点では本末転倒です。

 折しもこの4月から、医療費の費用対効果評価の試行的導入が始まりますが、現状においてはその方法はまだ確立されたとは言い難い状況です。技術革新を促す一方で、その費用対効果を適正に評価する手法の確立も同時に進めていかなければならない課題だと再認識した次第です。

本コラムは、バイオテクノロジーの研究者やバイオ産業の関係者に最新の専門情報を届けるメールマガジン「日経バイオテクONLINEメール」に掲載された文章を再編集したものです。日経バイオテクONLINEメールの新規登録などはこちら