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事前地震対策は役に立ったか

「全く役に立たなかった」

 2011年3月11日の東日本大震災から3週間ほど経った頃、私が各社の調達・購買部門にヒアリングをすると、こんな発言を聞かされた。各社の事前地震対策が功を奏したかどうか質問していたときのことだ。

 東日本大震災の後、「災害対策」「BCP(事業継続計画)」といった言葉が注目を集めた。とはいえ、各社がそれまで全くの無策だったわけではない。多くの企業は、災害時にサプライチェーンを寸断させぬように、多かれ少なかれ事前策を講じていた――はずだった。それなのに「全く役に立たなかった」というのだ。

 いったい、どういうことだろうか。

 日本には「ゼロリスク信仰」がある。それは、「リスクはゼロでなければいけない」とする「宗教」のことだ。従って、あらゆるリスクを想定し、リスクをゼロに近づけていこうとしてきた。

 調達・購買部門においても、あらゆるサプライチェーン上の問題について「何が起こっても大丈夫」なはずのリスク対策を練ってきた。サプライチェーンが止まることは、あり得ないことだった。そして、「あってはいけない」ことだった。

 東日本大震災では、その止まるはずのないサプライチェーンが機能不全となり、数日~数カ月にわたる生産停止を余儀なくされた。とはいえ、あれだけの大震災だったのだ。「全く役に立たなかった」と関係者は言うが、事前地震対策によって確かに被害の拡大を抑えた側面があったのである(そうでなければ、あれほど迅速な物流網の再構築や生産・倉庫の復旧があり得ただろうか)。

 しかし、「被害の拡大を抑えた」程度では、なかなか評価されにくいのも事実である。サプライチェーンと生産ラインを止めてしまった以上、批判はされる。そして、止まったという事実だけを見れば、事前地震対策は0(ゼロ)点というわけだ。それが関係者の自虐的発言である「全く役に立たなかった」につながっていく。

 振り返れば、このような「ゼロリスク信仰」の背景には2つの問題があったように思われる。第1に、リスク自体を事前に全て掌握できるかという問題。第2に、リスクを本当にゼロにできるかという問題だ。