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第2の問題:リスクを本当にゼロにできるか

 結論から言えば、リスクをゼロにするには、莫大な検証時間と人員が必要となる。

 生産管理の世界では「シックスシグマ」という言葉が使われる。これは標準偏差で不良発生確率を考慮し、100万回に3回(正確には3.4回)の不良発生数以下に抑えようとする試みだ。生産の領域であれば、シックスシグマを採用することには意味があるだろう。しかし、これでも不良発生確率はゼロではない。何よりも、不良ゼロは現実的ではない。「100万回に3回から、2回へ。そして、1回へ。最終的には0回へ」という考え方を全てのリスクに適用しようとすれば、終わりなき迷路へと自らを誘う。

 愛知製鋼の事故では、「特殊鋼という重要部材であったにもかかわらずライン災害の予想見込みが甘かった」とする向きもあったが、果たして本当にそうだろうか。十分な安全管理や定期的な監査を実施している状況で、主要ラインで爆発事故が起きたときに即時復旧できる計画を立てている企業はどれほどあるだろうか。自動車を構成する部品が何万点とある中で、全体の生産量の5割(あるいは6割、7割)の生産ラインが止まった場合を想定することは現実的ではない。

 私は、サプライヤーに対して「いかなる生産ライン停止リスクにも対応せよ」と強く厳命していた調達・購買部門を知っているが、その企業自身は生産ラインが完全停止するリスクを全く考慮していなかったのが印象的だった。

 さらに、愛知製鋼から他社への特殊鋼製品の生産移管について、あたかも手間取ったかのように語る人もいるが、それも信じられない。生産技術や調達に少しでも携わっていれば、今回のスピードはむしろ速いとしか思えない。特殊鋼は簡易なプレス部品であっても、サプライヤー間の生産移管には微妙なチューニングなどで時間がかかるものだからである。

 前述のリスク分類では、愛知製鋼の事故は、損害こそ大きいが発生可能性は小さいので、「セカンダリーリスク」に分類される。そのため、対策立案の優先順位としても「プライマリーリスク」の次という位置付けになる。これは当然のことで、同じぐらいの損害ならば、ごくまれにしか起きないリスクよりも、頻度が高いリスクから対策を考えるべきだからだ。

 しかし、ここで再び話は戻る。たとえ優先順位付けとしては正しくても、サプライチェーンと生産ラインを止めてしまったら、世間からは止まった事実をもって0点と評価されてしまう。それが、プライマリーリスクなのか、それともセカンダリーリスクなのかということはお構いなしである。