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マルチソース化という幻想

 先に述べた通り、リスクマネジメントでは、全てのリスクをしらみ潰しに対策するのではなく、優先順位を付けた上で事前・事後の対策を講じていく。

 東日本大震災では、マグニチュード9の地震が起き、津波が発生し、一国のGDPの10%弱に相当する経済圏がマヒした。しかも、原子力発電所が近くにあり、サプライチェーンどころか、一国の政治体制にまで大きな影響を及ぼし、産業政策の転換さえ促した。

 これほど大きな災害を事前に予測していた企業はなかっただろう。可能性として挙げていたとしても、ここまでの災害が起きてしまう確率は「低(Rare)」であり、それによる損害がどれだけ大きくてもセカンダリーリスクに分類される。その対策が後手に回っていたとしても当然のことだ。

 リスクマネジメントはその定義通り、リスクとベネフィットをてんびんに掛け、場合によっては何も対策を講じないこともあり得る方法論である(よくある話として、「地球に隕石がぶつかったときのリスク対策まで考えるべきか」という問いがある。これは「想像し得る」災害である。可能性もゼロではない。ただし、このような極端なリスクを事前把握していたとしても、対策は難しい)。諦観も含む。

 故に、これはリスクマネジメントの限界ではないかもしれない。「リスクの事前対策だけでは決して万全ではない」という当然の事実を指し示している。しかし、だからといってリスクマネジメントは無意味だと勘違いしてはいけない。そうしなければ、「全ての部品をマルチソース化せよ」などという誤った方向に議論が流れてしまいかねない。

 よく、調達品のマルチソース化(2社購買化)によって全てのリスクが消えると喧伝されるが、あり得ない話だ。マルチソース化の実現は、多くの企業にとって困難である。ティア1レベルでマルチソース化するにしても、試験・監査などによって部材には二重のコストが掛かる。ティア2やティア3まで管理しようとするならば、そのコストは莫大になる。

 重要部品だけをマルチソース化するという考え方もあるが、重要部品は1つではない。製品によっては何千もの重要部品がある。さらに、重要部品ではなくても、手に入らなければ生産が止まってしまう部品は幾らでもある。とするならば、原理的には全ての部材についてマルチソース化と源流管理が必要となる。それこそ、実現不可能なことだ。

 では現時点で、想定外の事象に対応するために考えられることはあるのだろうか。