PR

「お願いだから代わりに作って」と言えるか

 調達・購買部門に必要なことは「土壇場でお願いできる力」だと思う。何をお願いするかというと、緊急時にはメーカー間の垣根や、機密事項や、しがらみなどを超越して、とにかく「お願いだから代わりに作って」もらうことだ。代替生産を説得できる力と、日ごろの関係性構築が重要となる。

 東日本大震災では、最もサプライヤーの復旧に役立ったのは、競合他社の生産状況を教えてあげることだった。例えば、サプライヤーA社が震災に遭ったとしよう。バイヤーはサプライヤーA社に対して、サプライヤーB社の生産状況を教えてあげるのである。もしかしたら、サプライヤーB社では生産設備の余力があり、サプライヤーA社を救えるかもしれない。あるいは、サプライヤーB社のティア2メーカーの設備には余力があるかもしれない。そして、サプライヤーA社は彼らの助けによって、なんとかラインをつなげるかもしれない。

 通常時であれば、競合他社の製品を代理生産するなどあり得ない。ただし、緊急時にのみ、その垣根は取り払われ得る。そこに、本当のマルチソース化の可能性がある。

 つまり、現実的に考えれば、リスクマネジメントにおいては、「調達できるサプライヤーを複数用意しておく」ではなく、「今のサプライヤーの協力を取り付けて対応する」「万が一のときの被害を最小化する」に移行せざるを得ない。その際、各企業に求められるのは調達・購買部門の「土壇場でお願いできる力」になるだろう。

 今回、愛知製鋼は残念ながら生産ラインを爆発事故によって止めてしまった。だが、大同特殊鋼は直ちに、「できる限り応援する」と発表した。そして神戸製鋼所も代替生産の要請に応じた。それ以外のメーカーも協力姿勢を見せている。

 私もかつて自動車メーカーにいた。そもそも自動車部品は、サプライヤーと共に、新車の企画構想段階から一緒に作り上げる。そして部品や材料を認証する。だから、部品の開発・製造ノウハウを、自動車メーカーがあらかじめ複数のサプライヤーに渡すのは現実的ではない。しかし、緊急時にはそのような垣根を取り払い協力してくれる――。トヨタ自動車に「土壇場でお願いできる力」があるとすれば、それが発揮されたといえるだろう。

 特殊鋼部品は、同業であってもたやすく生産できるものではない。時間もかかり、かつ他社向けの生産にも影響が出る。その上でも日本産業の根幹である自動車ラインを復旧させようとしている。まずこの事実に注目すべきだろう、と私は思う。

 正直に申せば、私は仕事上、トヨタ自動車グループではなく、競合他社グループに近い立場にいる。それでも、トヨタ自動車の努力は正しく評価されるべきだと私は思う。

 愛知製鋼の事故は、むしろ評価する側の質を問い掛けている。

坂口孝則(さかぐち・たかのり)
未来調達研究所取締役
大阪大学経済学部卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務に従事。 現在は未来調達研究所取締役。調達・購買業務コンサルタント、研修講師、講演家。 製品原価・コスト分野の専門家。サプライチェーン分野の知識を使い、ものづくり領域の先端解説などを行う。