だから、客が離れたのである
元々、建材の劣化防止剤はあるにはあるのだが、その性能と言えば、適当な時期に補修の仕事が出るように、長期にわたって効果のあるものは、かえって不都合になるのであった。
それが、高齢化社会になった今の時代、そもそもが補修する職人も不足し、補修箇所も増大するようになり、一度補修したらそれでOKにしなければ間に合わないのである。
その、これからのニーズを、この営業マンは気付き、これほど手離れの悪い案件に身を乗り出したのだから、素晴らしいと言うしかない。普通なら、手離れが悪いからと、あっさりとスルーしてしまうに違いない。
この話、そんなことは当たり前と言われるかもしれないが、実は、多くの企業が、それも中堅・大企業が、この手離れを良くしようと言い続けて来たのではあるまいか。
振り返れば、高度経済成長期を経て、わが国の好景気は続き、次から次に客が現れ、商品やサービスが飛ぶように売れた時代があった。
そして、バブルがはじけ、リーマンショックで壊滅的なダメージを受けた後、わが国の中堅・大企業は、以前に増して手離れに固執したように見えるのである。売ってしまえばそれでおしまい。そうしないと、利益が出ないと、とにかく効率重視のあまりに、このような手の掛かる案件に手を出すなと言い続けてきたようだ。
だから、客が離れたのである。手離れの良い商品やサービスに特化すれば、それは確かにもうかる。しかし、もうけ話には誰もが耳をそばだてる。それを知った同業は、コスト競争を仕掛けて参入するのである。
やがて、同業はもちろん、新規参入事業者も現れて、それこそ入れ食い状態。ちまたに商品やサービスが飽和状態になると、もうそこに新しい客はいないし、従来の客も次第に離れていったのである。