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「どうせお前は売れないから、早く来てクルマでも洗っとけ」

F:ゼロはヘコみますよね。

:ヘコむ。それにイジメられるよね。セールスは売れてナンボなんだし、そもそも俺、本社の、しかも商品企画から来ている訳だから。「お前らがこんなショボいクルマを作っているから売れないんだよ」という話になる訳じゃない。必ず。

F:あー……言いますね。自分が営業の人ならやっぱり同じように言うと思います。

ADフジノ:フェルさんはここぞとばかりに攻め立てそうですよね。タチが悪そうだな。

:営業所としても、ある意味ふるいにかけるんだ。「こいつはどこまで耐えられるか」って。ダメで潰れてしまうやつは、長く居てもどうせ使い物にならないからサッサと本社に帰ってもらう。中には本当に泣いて潰れて、本社に戻るどころか日産そのものを辞めてしまう奴もいた。今なら完全にブラックで、大問題になってしまうけど、20年以上前はそんなやり方がどこの会社でもまかり通っていたんだ。信じられない話だけど。

F:恐ろしや……。

:みんなが出社するのは10時なんだけど、どうせお前は売れないから、せめて早く来てクルマでも洗っとけやと。だから毎日7時に出社して、15台有る展示車両を片っ端からゴシゴシ洗っていた。

F:辞めようとか、ギブアップして本社に帰りたいとか思わなかったのですか。

:どのツラ下げて本社に帰るのよ(笑)。アタマ取るまでは絶対に帰る訳には行かない。で、クルマを洗っている間はヒマだから。いろいろ考える訳。

 その頃のマニュアルは、ともかく靴底をすり減らして1日に100件飛び込み営業をして来いというものだった。今なら完全にアウトだけど、夜の9時を過ぎても一軒一軒回るわけ。「こんばんは。日産プリンスの田村です。クルマは要りませんか」と。

 お客さんは家に帰ってひと風呂浴びて、ビール飲んで寛いでいる時間だよ。これじゃ売れるわけが無い。売れるどころか、逆に怒られちゃう。

F:こんな時間になんだ!帰れ帰れ!と。

:そう。だから手書きのダイレクトメールを送った。中の手紙はもちろん、宛名から何から一切コピーを使わずに。それを茶封筒に入れて。

 ディーラーから来た既製品の封筒だと、ビリっと開けてちょっと見てゴミ箱に直行でしょう。でも手書きの茶封筒が来たら、取り敢えずは「あれ?これは何の手紙だろう」と開けて読んでみるじゃない。

F:確かに。普通のDMなら開封しないでゴミ箱へ直行です。

:でも手書きなら読んでもらえる。そして手紙には「自分は瀬谷営業所二ツ橋の人間です。クルマが大好きで、スカイラインをずっと昔から売ってきました」と書いてあるわけ。ちょっと脚色を含めて。

F:セールスに来て1年目なのに、「ずっと売っていた」と(笑)

:でも日産に入って以来、ずっとスカイラインが好きで、友人知人には「スカイラインは絶対に良いぜ」と言って売りまくっていた訳だからさ。決してウソじゃない。

F:あー(笑)

:クルマのことなら何でも知っています。車検点検からカスタマイズまで、何でも聞いて下さい。何でもお答えできますから、と手紙に書いた。そうしたら何人かの人が面白がって、ボチボチ営業所に来てくれるようになった訳。クルマ談義をしに。

F:まだ買ってはくれないんですね。

:まだまだ。でも店に来てくれるのは「大いなる一歩」でしょう。その話が徐々に大きくなって、瀬谷の公会堂でクルマ談義のイベントやろうという話になった。最初は3人くらいの茶話会レベルだったのが、徐々に20人、30人と大きくなっていって、最後には150人が集まる大イベントになった。

F:凄い!大イベントじゃないですか。しかも限られたエリアの限られた客を対象にして。営業には縄張りが有るのでしょうから。