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低コストなIoTの成功事例も

──IoTによる生産性の向上は難しくコストも掛かるので、大手企業ならともかく中小企業には手が届かないと考えている経営者もいるようです。

伊本氏:私も経営者から、そうした話は何度も耳にしてきました。しかし、その考えは間違っていると思います。何もいきなり高度なIoTシステムを導入する必要はありません。業務の全てにIoTやAIを導入しなくてもよいのです。その企業にとって必要な部分に、適切に新技術を活用する方法で構いません。

 この点では、自動車部品を手掛ける旭鉄工(本社愛知県碧南市)のIoT導入事例が参考になります。安価なセンサーを使い、生産設備の稼働率や製品のサイクルタイムなどのデータを記録。クラウドサービスを使用して生産性を高め、従業員の休日出勤をなくして人材コストを削減したのです。ここで、使ったのは1個300円ほどのセンサーや同じく3000円台の制御装置(「Arduino」)程度だそうです。

 現場の抱えている問題点を洗い出し、改善の必要な部分に絞って適切なIoTを導入すれば、短期間かつ低コストで、大きな生産性向上を期待できます。

IoTなくして今後の改善はできない

──コストを掛けなくてもIoTで成果を出せるのですね。

伊本氏:そうです。まず、多くの経営者が勘違いをしているのは、IoTは未来の技術ではなく、今そこにある現実であることです。将来的に大きな可能性を秘めていますが、スタートは企業の問題改善に使うことからです。大切なのは、これまでの改善は人間の力でできましたが、これからの改善はIoTなしでは進まなくなるということです。そう言い切っていいと思います。人の力だけでは改善はもう限界だと2017年に分かったわけです。

 改善とは、その時代と状況に合わせて生産現場をどんどんダイナミックに変えていくことです。そう考えると、今後は人間の力だけではリアルタイムに状況を把握できない。だから、IoTが必要なのです。

 細かい作業や生産ラインの構成、製造した部品の選別などを、生産現場でダイナミックに改変していく。これが今後の改善の在り方であり、その先に「スマート工場」と呼ばれる複雑な生産を効率よく行う製造の姿があります。

 このとき、製造機器などに詳しい技術者が社内にいれば、大きな機械は無理でも小さな機械であれば専門メーカーに依存せず、その場で自分たちで変えられます。これは製造業にとって大きなメリットです。IoTを使えば、生産現場で制御機器や工作機械、ロボットを必要に応じて改善し、改造できるようになってきました。外注せずに、自分たちで生産現場を変えられるのです。

 刻々と変化する市場の需要や時代の要請に合わせて、生産や工場の在り方を変えることによって効率を向上できる。そこで初めて、従業員が残業しなくても生産性を上げられるようになるのです。

 特に意識しなければならないのは、多品種少量生産への対応です。少品種大量生産では中国にかないませんから、多品種少量生産に対応せざるを得ない。そうすると人間だけでは無理で、IoTの力に頼らなくてはいけません。

 人間の仕事は生産現場をどのように改善し、AIやロボットをどのように操作するかなどを考えることです。後の作業は全てAIやロボットが自動的に行い、適切に稼働しているか否かを人間がチェックしてマネジメントするという役割分担になります。これが、これからの「カイゼン2.0」と言ってもよいでしょう。