経営者こそ知識が必要
──やはり、IoTに関する知識を持つ人材が必要ですね。
伊本氏:その通りです。IoTシステムの設計開発に詳しい「IoTマネジャー」と呼ぶべき人材が必要です。
ただし、その前に経営者です。経営者がIoT関連の最新技術を追いかけるくらいのことはしなくてはなりません。この姿勢がないと「IoTの導入は技術的に難しくて過大なコストが掛かる。中小企業では何もできない」と思い込んでしまう。既に、先の旭鉄工のように低コストで簡単なIoTの導入事例があるにもかかわらずです。
気をつけなければならないのは、意欲だけが先走ると、自力では何も調べずにIT(IoT)ベンダーに依頼し、高コストで不適切なシステムを導入する羽目に陥る可能性があることです。例えば、工作機のドアの開閉状況を記録できるだけで十分なのに、「あらゆるデータをグラフ化し、3Dで可視化しましょう」「どうせなら業務システムとリンクさせましょう」などとプランばかり大きくなり、5000万円、1億円といった見積もりが出て来て、「やはりIoTへの投資はやめよう」という結論に落ち着いてしまう。これが日本の製造業で続いてきた悪しき伝統と言ってもよいでしょう。
こうした悲劇を防ぐためには、ある程度の知識が経営者にも求められます。経営者が最低限の情報と判断力を身に付けた上で、社内でIoTマネジャーを育成すればよいのです。
情報技術に強い人材を確保するにはコツがあります。IoTの勉強会などに参加し、他の参加者とつながりを持てば、そこを手掛かりにして30歳代のIT系エンジニアと知り合い、採用することもできます。大手企業に在籍していても、上から命じられた単純作業の繰り返しに不満を抱えているIT系エンジニアは多くいます。多少、年収が下がったとしても、自分の力を思い切り発揮してシステムを構築できるような職場なら転職したい、と考えているIT系エンジニアは私の周りでも少なくありません。
生産現場で働く従業員の血と汗と涙に頼り、生産性を高めて時代の変化を乗り越える時代は過ぎました。IoTやAIをうまく活用しなければ、「第4次産業革命」と言われる大きな変化の波に乗ることができず、生き残るのは難しい。製造業界にとって2018年は、そんな節目となる年になります。