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キャストコンサルティング取締役・上海法人総経理の前川晃廣氏
キャストコンサルティング取締役・上海法人総経理の前川晃廣氏
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 成長率の低下に株安、需要の減退──。中国の景気失速が鮮明になった。従来の円高に加えたこの変調が、多くの日本企業に喫緊の対応を求めている。だが、中国ビジネスの真の姿は日本人には見えづらい。そのため、日系企業の中国拠点では今、従業員による不正問題で悩んだり、事業の再構築のための人員削減でトラブルを抱えたりするケースが増えている。

 中国で、そして現地の日系企業で何が起きているのか。「技術者塾」において(1)「日系メーカーのための 中国現地法人における不正発覚と内部統制」〔2016年2月15日(月)〕、(2)「日系メーカーのための 中国現地法人「人員削減」のノウハウ」〔2016年2月16日(火)〕の講座を持つ、キャストコンサルティング取締役・上海法人総経理の前川晃廣氏に聞いた。今回のテーマは中国の景気の実態と、日系企業を悩ます従業員の不正問題である。(聞き手は近岡 裕)

──年始早々の2016年1月4日、中国の株式市場でサーキットブレーカー(注:一定の価格変動が生じた際に株式の取引を強制的に停止する制度)が発動され、株式の売買が停止になるというニュースが飛び込んできました。中国の2015年のGDP(国内総生産)も7%を下回ったと報じられており、中国経済は変調を来しているようです。日系企業を取り巻く中国の経済環境は今、どうなっているのでしょうか。

前川氏:この1~2カ月で中国の経済環境はガラリと変わっています。2015年を振り返ると、年間を通じて1人民元(以下、元)=約20円でした。2011年秋の時点で1元=12円台だった時から比べると、4年間で円に対して元が約1.6倍になりました。人件費や燃料、資材の高騰に加えてこの元高円安ですから、「もう中国でものを造るのは割に合わない」という声が多くの日系企業から上がりました。「こうした元高円安が続くなら中国から出て東南アジアで造るか? いっそのこと日本へ「国内回帰」するか?」と多くの日系企業が悩んだと思います。

 ところが、2016年に入ったこの1~2カ月で中国の景気減速が露呈しました。これにより、元高円安傾向が終わりつつあります。現在1元=17円台まで下がっており、元安円高が始まっているのです。これを受けて、「中国でのものづくりは採算がとれない」という考えを見直す日系企業も出てきました。当然ですが、元安円高が進めば中国で製品を造る利点は回復します。足下ではそうした兆候が出ているのです。

 ただし、中国は国家主導で構造転換を目指している。これまでのモノマネを改め、独自開発へと舵を切ることでしょう。自らイノベーションを起こし、新しい技術を発明していきたいと考えているのです。しかし、そのために必要な基礎研究の力はない。そこで、先進国からの技術移転型の進出を中国は歓迎します。中国にはない最新技術や革新的技術、イノベーションを起こし得る技術を持つ海外企業の中国への投資です。日本企業としては、自社の利益を守るために技術のブラックボックス化を図りながらうまく中国に進出できれば、大きなビジネスチャンスをつかめることでしょう。

 中でも、優れた環境技術を持つ日系企業はチャンスです。地域にもよるのですが、中国では微小粒子状物質(PM2.5)による大気汚染は深刻です。北京などではほぼ毎日のように大気がかすんでおり、人々はマスクを着用して外出します。空気清浄機は日本よりもずっと高い価格であるにもかかわらず、よく売れています。乳児には呼吸器を付ける人までいるほどです。環境技術は中国で最も高いニーズがあります。

 年初に中国の証券取引所で株安によるサーキットブレーカーが発動したことをショッキングにとらえた日本人は多いかもしれません。しかし、あれは中国の金融政策の稚拙さが原因です。

 2015年7月にCSI指数(注:上海と深センの株式市場に上場する有力企業300銘柄で構成する指数)が約6000ポイントから約3500ポイントに大暴落しました。日本でも大きく報じられたため、覚えている人もいるかもしれません。ところが、実はその半年前の2015年1月のCSI指数は約3500ポイントだったのです。ここを基準に見れば、急騰した株価が半年で元に戻っただけなのですが…。

 この事態を受けて、中国は上場企業の大株主に対する株式売却制限措置を採りました。結果、株価が急落してサーキットブレーカーが発動され、株式の取引停止に至ったというわけです。問題を先送りにしたツケが回ってきたのです。

 いずれにせよ、中国の経済政策そのものは新興国の中でもかなり遅れています。為替も株価も国で制御できると考えてきましたが、もはや国際マーケットの影響を回避できない時代になっているのです。