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VW社の排出ガス不正問題が「悪質」な理由

──どのような車種に搭載したのですか?

藤村氏:「カローラ」や「アベンシス」、「RAV4」、「レクサスIS」などに搭載して欧州域で販売しました。当時はEURO4を満たせば良いので、PMを0.005 g/kmまで下げる必要はなかったし、わざわざNOx触媒を付ける必要もありませんでした。しかし、次の規制であるEURO5(2009年)の時代が来たらどうせ下げなければならないのだからと、私たちは先を見据えてEURO5並みの水準までPMとNOxを低減したのです。

 この発表を聞いた欧州メーカーは相当驚いたと思います。「トヨタ自動車は、EURO4どころかEURO5もクリアするほどの排出ガス浄化システムを2005年の時点でもう出してきた」と。

 私たちが開発したDPNRは、NOxを触媒中に吸蔵、すなわちためておき、ある程度たまったら少し燃料を吹いて排出ガスをリッチな条件にする。そうすると、触媒内に硝酸塩のかたちで吸蔵されている窒素が還元されて大気中に放出されるものでした。窒素になれば環境負荷はありません。一方、PMについては、走行中に再生できずにDPNR 触媒内にたまったものは、ある量の燃料を吹いて排出ガスを高温にして再生するタイプでした。

 これに対し、2003~2005年当時の欧州メーカーは、欧州ではNOxの規制が緩やかだったため、NOx触媒についてはあまり積極的に開発していなかったように思います。それよりも、PMを浄化するDPFの開発の方が優先度が高かったのです。

 そうした中で、トヨタ自動車がPMを取れるDPF機能を持ったNOx触媒を実用化したのですから驚いたのです。恐らく、VW社もDaimler社もBMW社もNOx触媒を開発中だったとは思いますが、当時はまだ市場投入できる水準ではなかったはずです。ですから、技術的に難易度の高いNOx触媒システムを米国向けに投入することは大変だったと思います。

──VW社が犯したこの排出ガス不正問題は「悪質だ」と専門家から指摘されていますが、どういうことなのでしょうか。

藤村氏:ここからは、元トヨタ自動車の人間ではなく大学の研究者の立場で話をさせていただきます。確かに悪質だとは思います。これは排出ガス規制逃れですね。この排出ガス規制がなぜ存在するかと言えば、大気を汚染から守るためです。ところが、VW社の規制逃れをしたディーゼルエンジンを搭載したクルマは、走行中に排出ガス浄化システムを作動させないことと同じですから、有害物質を大気に放出して走っているのです。自動車メーカーとしてのモラルが希薄だと思えます。

 よく「ディフィートデバイス(無効化機能)」と言われますが、これはそんな話ではなくて、もっと悪質な問題と考えられます。

 実際の走行中に、排出ガス認証試験の試験走行モードおよび試験条件(外気温度、圧力)から外れた状態で排出ガス浄化システムを効かないようにするのが、ディフィートデバイスです。排出ガス規制の条項では、実走行において「認証試験走行モードを外れてもエンジンの耐久性などに問題がなければ、排出ガス浄化システムの作動をいきなり切ってはいけない。エンジンの信頼性に問題がない限りは排出ガス浄化機能を連続させなさい」となっているのです。従って、これらは審査時にきちんと書面として提示するようになっています。

 これに違反した時にディフィートと言われるのです。具体的には、エンジンの電子制御ユニット(ECU)のソフトウエアの中に、認証試験のモード走行中に相当するこの領域はシステムを機能させて排出ガスを浄化する、モード域を外れたこの領域は排出ガス再循環(EGR)システムを止めてEGRガスをカットし(注:EGRガスを止めるとNOxが増える)、この領域はNOx触媒の制御を行わない、などといったソフトウエアを組み込んだECUを指してディフィートデバイスと呼んでいます。

 ところが、VW社の問題のディーゼルエンジンに関して言われている違法ソフトウエアとは、実走行状態において、排出ガス審査を行うモード相当領域(審査時と同じ大気温度/圧力)においてもNOx浄化をしていないのです。VW社の技術者はこのソフトウエアを使うことが違法であることはもちろん、使ったらどんな水準のNOxを排出するかについても当然、知っていたはずです。VW社は米国で実走行時に規制値の40倍とも言われる大量のNOxを排出していると指摘されました。しかし、同社自身もNOxの排出量を計測しているはずです。

 認証試験においては無理やり審査を通し、実走行では排出ガス浄化機能をほとんど働かせず規制値をはるかに超える排出ガスを吐いている。これはディフィートデバイスどころの話ではありません。今思えば、国の排出ガス規制の審査官をだまし、お客様をだましたと言われても仕方がないと思います。