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溶接技術だけで戦えるか

──日本では接着技術や接着剤が軽視されている、という指摘ですね。

若林氏:そう言えると思います。締結を除いて物をつなぐ技術には、溶接や接着があります。欧米では両技術とも高い価値が認められており、肩を並べています。その証拠に、欧米にはドイツBayer社やドイツHenkel社、スイスClariant社、米3M社など世界的に有名な企業が接着剤を開発しています。ここまで規模の大きな接着剤メーカーが多いということは、すなわち、接着剤を多く使うユーザーが欧米に多いという証拠でもあります。

 これに対し、日本では溶接重視に偏っています。そのため、接着技術に関する知識やノウハウを持つ技術者がユーザー側に少ないという課題があります。

──その分、溶接技術が高く、溶接技術で差を付けるという考え方もあるのでは?

若林氏:いいえ。溶接だけでは限界を迎えつつあります。クルマをはじめ、あらゆる業界で従来とは段違いの軽量化時代に突入しつつあるからです。その好例がマルチマテリアル構造のボディーなのです。

 というのも、溶接は基本的に同じ材料同士しか接合できません。ということは、異種材料同士をくっつけることはできない。もちろん、樹脂を溶接することもできません。加えて、溶接にはもう1つの課題があります。それは、応力集中の問題です。

 確かに、溶接やリベット、ねじ締結といった機械的接合は高い接合力が得られます。その半面、マクロ的に見ると点で接合している。従って、そこに外力が伝わると、その接合点で一点応力集中が起きる可能性があるのです。一点応力集中が起きると、その接合点に総ての応力が集中した状態で、過酷な環境下にさらされた場合に、耐久性に課題が生じる可能性があるというわけです。

 これに対し、接着には「接合力が弱い」というイメージが日本にはあるかもしれませんが、それは正しくありません。接着は面積で強度を高める仕組みのため、十分な接合面積を確保することで高い接合強度が得られます。逆に、接合面積全体で接合力を発揮するために一点応力集中を避けることができます。従って、接着は耐久性に有利になります。

 溶接と接着の両方の価値が分かっているからこそ、欧米ではこれらをうまく組み合わせて使おうという発想が出てくるのです。好例は、クルマのボディーの接合で実用化されている、スポットウェルドボンディグという接合技術。文字通り、スポット溶接と接着剤を併用する接合方法です。接着の面接合により剛性が高まり、かつ応力を分散できて耐久性が上がる。まさに「いいことずくめ」です。強度だけならスポット溶接でも問題ありませんが、応力集中という課題がある。そこで、欧州の自動車メーカーは、溶接と接着と組み合わせることで、より高付加価値のボディー設計を可能にしたというわけです。このスポットウェルドボンディングは日本の自動車メーカーでも採用が徐々に増えてきましたが、欧州の自動車メーカーの方が先行しています。

 日本でも接着技術を多用している業界があります。それは、飛行機部品を製造する業界です。米国企業から発注されることで、溶接に加えて接着も積極的に使っています。ところが、その接着技術が自動車業界や鉄道車両業界に伝わらず、応用が遅れています。結局、それは接着技術を知らない技術者が多いからではないでしょうか。

 欧米では溶接技術も接着技術も知見があるため、それぞれの特徴を踏まえた使い分けや組み合わせが自在にできる。この製品のこの箇所は溶接だ、この部分は接着がいい。ここは併用して差を付けよう、といった具合に。こうしたことが自在にできるようになるには、接着技術の基礎をしっかりと押さえておかなければなりません。そうでなければ応用が利かず、いつまでも実用化への展開ができません。