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ビジネスキューブ・アンド・パートナーズ シニアディレクターの田渕一成氏
ビジネスキューブ・アンド・パートナーズ シニアディレクターの田渕一成氏
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 海外と比べて日本の自動車部品メーカーの対応の遅れが顕著となっている。車載システム開発向けのプロセスモデル「Automotive SPICE」への対応についてだ。欧米の大手自動車部品メーカーの多くは既に完全な対応を済ませており、最近は中国、韓国などアジアのメーカーが対応を加速させている。Automotive SPICEに対応するには、実際に車載システムを開発設計する技術者が知識やノウハウを習得し、自身の活動や作成した成果物を正当に説明できる必要がある。「技術者塾」で「開発者に向けた「Automotive SPICE 3.0」の徹底活用法」〔2016年9月30日(金)〕の講座を持つ、ビジネスキューブ・アンド・パートナーズ シニアディレクターの田渕一成氏に、Automotive SPICE 3.0に対する日本メーカーの現状を聞いた。(聞き手は近岡 裕)

─前回から続く─

──まさか、車載システムの品質で中国企業に負ける例が出ているとは…。日本の自動車部品メーカーが開発する車載システムの品質に「黄信号」がともっているというわけですね。にも関わらず、Automotive SPICEへの対応に早急に取り組んでいない日本の組織が多いようです。なぜでしょうか。

田渕氏:先ほどのお話の通り、欧州向けのビジネスを展開してきた組織では、Automotive SPICEが好きか嫌いかという以前にビジネスを進める上での受注条件としての必要性があってAutomotive SPICEの取り組みに着手してきた背景があります。では、受注条件になっていない場合はどうでしょう。組織の中の何人かがAutomotive SPICEの必要性を感じていたとしてもなかなか活動が広がらないというケースが多く見かけられました。

 日本企業は「閉じている環境」、すなわち1社(自社)、1つの部署、あるいは数人で開発を行うことに長けています。いわゆる「あうんの呼吸」を使った開発が得意なのです。多くを語らずとも意思疎通ができる日本の強みだと思います。

 ところが、開発規模が大きくなり、例えば数百人もの開発チームを要するような開発になると、閉じた環境での開発は不可能となり、社内の他チームや海外を含む外部の企業と連携して開発しなければなりません。このとき、あうんの呼吸による意思疎通は期待できません。結果的に、限られたキーパーソンがうまく仕上げるということはありますが、こうした大規模な開発プロジェクトを進めていくためには、ルールを作り、プロセスを定義する必要があります。それぞれの開発チームがバラバラに動き、バラバラの定義で仕事を進めてしまっては、仕事の正しさを裏付けることができなくなるからです。

 しかし、日本の組織の多くは開発を進める前にそのルールを作り、プロセスを定義することが苦手です。その上、定義されたことや伝えたこと以上のことを相手に期待してしまう。海外の企業に仕事を依頼した結果、「書いてあることしかやってくれない」といった声をよく聞きますが、実施して欲しいことは相手に明確に伝える必要があります。

 実は、Automotive SPICEが生まれた背景には、企業を越えた「共通言語」を作りたいという狙いがありました。企業を超えた開発が行われるようになると、相手方の企業で行われる開発活動を理解する必要があります。それぞれの活動や作業成果物の呼び名は異なっていても、それらをAutomotive SPICEに照らし合わせることによってコミュニケーションを行いやすくなりました。