PR

Googleが背を向けた従来型MBAに日本企業は…

──なぜ、多くの日本企業は世界の先進的な企業のマネジメントの変化に気付かず、欧米型の経営理論に学ぼうとするのでしょうか。

高木氏:人事・総務部部門、経営企画部門、もっというと経営者の多くが実践型のマネジメントを経験したことがないため、よく分からないのでしょう。世界的に言えるのは、実践型のマネジメントのプログラムが存在しないということです。「学校教育の中に経営理論はありますが、実践型のマネジメントを教えるプログラムがない」というのが、企業のマネジメントを研究するある大学教授の弁です。それをMBAで代替しようとしても理論しか学ばないので実践できないのです。

 多くの日本企業ではマネジメントがばらついています。前のマネージャーの時はこうだったけれど、今のマネージャーの下ではこう変わった、というのは珍しくないはずです。マネジメントが属人的になってしまっている。小学校から大学までマネジメントについて教育する場所がないというのが、先の大学教授の考えです。そうした理由で、日本企業のマネジメントは有名な欧米企業のそれを模倣し、また従来型のMBAを良しとしてきたのでしょう。

──しかし、日本企業にもカリスマ経営者と呼ばれる人がいます。そうした経営者がいる企業では、優れたマネジメントが行われているのではないでしょうか。

高木氏:カリスマ経営者と呼ばれる人のマネジメントは、その人独自のものです。よくあるのが、創業者が苦労してマネジメント力を高めていくケースです。その後、会社を2代目が受け継ぐのですが、どうするかと言えば、創業者から話を聞いて擬似的に苦労を経験しようとする。しかし、多くの場合、創業者時代に比べてマネジメント力は弱まります。マネジメント力は経験知でしかありませんから、世代を超えて継承されず、次第に弱まっていくことが多いのです。カリスマ経営者の企業がもたないと言われるのは、こうした理由があるからです。しかし、トヨタ自動車にはTPSとそれを支える組織がありますから、経営者も含めてそこでTPSと帝王学を学ぶことができます。

 知識は世代を超えても蓄積されていくので継承されます。でも、マネジメントは世代を超えて継承されることはありません。マネジメントは自らが経験を積む以外に道はないからです。しかし、歴代の経営者のマネジメントをそのまま経験するとしたら、社歴と同じ年数がかかってしまう。短時間でマネジメントを習得できるようにするには、システムが必要です。それがトヨタ自動車の場合はTPSだったというわけです。しかし、こうしたシステムを備える日本企業はほとんどないと思います。

 マネジメントが下に継承されない、企業文化をつくるには時間がかかり過ぎるという根本的な課題を解決するために、私たちはトヨタ流マネジメント(TMS)を開発しました。通常なら何十年かかるところを、数年で企業文化を再構築するプログラムをデザインしています。数百人規模の会社であれば、従業員の共通の価値観と行動原則までを含めて、1つの目安として5年で再構築することができます。他のコンサルティング会社は制度や組織の再構築は行いますが、従業員の職場活性化や共通の価値観、行動原則までを変えることがなかなかできません。TMSは、それらを従業員満足度(ES)も高めながら変えて行くプログラムになっています。

 トヨタ自動車のマネジメントは、知識を伝えるだけではなく、徹底して実践にこだわっています。例えば、同社のマネジメントの基本的な考え方に「知行合一(ちこうごういつ)」というものがあります。これは、中国が明の時代に王陽明が唱えた陽明学の教えで、意味は「本当に知るためには、必ず実行を伴う」というものです。要は、実践哲学であり、「まずは行動せよ」「論より実践」というのがトヨタ自動車の哲学なのです。

 TPSを編み出して実践した元トヨタ自動車副社長の大野耐一氏は、「かくすれば、かくなるものと知りながら、已(や)むに已まれぬ改善(トヨタ)魂」という言葉を社内に残しました。「改善魂」と書いて、「トヨタ魂」と読みます。ご存じの通り、明治維新の指導者である吉田松陰の「かくすれば、かくなるものと知りながら、已むに已まれぬ大和魂」をまねたものです。「良くなることが分かっているなら、改善せずにはいられない」という実践型マネジメントの思想が、この句にも込められています。