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 これまで、本質に迫れていたのにそうではなくなった古巣のソニーと、本質に迫れているべきなのにそうではない、コンサルタント、エコノミスト、経営者を引き合いに出しつつ、主として次の3つのことを述べてきた。

 ・ビジネス、企業、そして価値の本質とは何なのか
 ・それらに迫れると何(事物の本質に準じる考え)が見えるのか
 ・それが、本質に迫れていない人たちに見えるもの(事物の偶有性に準じる考え)とどう乖離しているのか

 要は、「本質ベースの経営」の話をしてきたのであるが、実はまだ、経営の本質とは何かを明らかにした上での経営の話をしていない。そこで、今回はその話しをしようと思う。

「モノ、金、情報」を活かすことは、経営の偶有性でしかない

 経営の本質とは何なのか。

 ビジネスの本質は「顧客価値を生むこと」であり、企業の本質は「ビジネスマンの集まり」だ。ならば、企業を指揮する者である経営者は、そのための支援をすることも含めて、企業の構成員であるビジネスマン(=従業員)にビジネスをさせる者、すなわち顧客価値を生ませる者であると考えられる。そして、従業員に顧客価値を生ませることは、世の中で経営とされるものから偶有性をすべて捨象すると残る、経営の普遍的な特徴だ。それ以外の活動を経営と呼ぶことがあるとしても、それは言葉の誤用と考えていい。だから、経営の本質とは「従業員に顧客価値を生ませること」なのだ。

 そして、何かに価値を生ませること、すなわち何かを役立たせることは、平たく言えば、何かを「活かすこと」である。よって、従業員に顧客価値という価値の一種(対価を伴う価値)を生ませることは、一般化すると「人を活かすこと」であり、故に、平たく言えば、経営の本質とは「人を活かすこと」となる。

 ビジネスの世界では、よく「人、モノ、金、情報」を活かすことが経営とされるが、経営の本質が「人を活かすこと」だとすると、「人」以外の「モノ、金、情報」を活かすことは、経営の偶有性でしかない。そして、このことは、企業の本質が「ビジネスマン(という人)の集まり」であり、「モノ、金、情報」は、企業の偶有性でしかないことと符号する。「人」こそが企業に「モノ、金、情報」をもたらすという事実とも整合する。

 だから、経営者は、何よりも「人」を活かすことを考えなければならない。なのに、近年は、「人」ではなく「モノ、金、情報」を活かすことばかりを考える、コンサルタントやエコノミストのような経営者が増えている。「金」を活かすことばかりを考える投資家のような経営者も増えている。

 つまり、自らがなすべき事の本質をないがしろにし、あろうことか、事実をもないがしろにする経営者が増えている、ということだ。そう考えると、私は、彼らにダメ出しをしないわけにはいかなくなるのである。

 なお、コンサルタントやエコノミスト(のような経営者)が好きなビジネスの仕組みというものは、コンピューターなどの「モノ」とそれが生む「コト(働き)」、ルールとしての「情報」の組み合わせであることが多い。また、手法というものは、体系化された「情報」であることが多いことを、参考までに述べておく。