自動車の電動化が進み、電子装備は増え続けている。電子装備の小型化による放熱性の悪化が進み、製品の設計初期から熱マネジメントを考慮することが必要になっている。また、製品開発競争が激化しているIT機器や電子機器では、熱で製品が動かなくなったり、低温やけどを招いたり、深刻な影響を与えるようになってきた。発熱密度の限界で開発が行われるようになっているからだ。
日経BP社は「熱設計完璧マスターシリーズ」と題した全4回のセミナーを、技術者塾として開催(詳細はこちら)。その第1回となる「上流熱設計のための過渡熱応答シミュレーション ~Excelを使ってカーエレ・パワエレに必要な動的熱設計をマスターしよう~」が2018年2月26日に開催される(詳細はこちら)。本講座で講師を務める国峯尚樹氏(サーマルデザインラボ 代表取締役)に、熱設計のポイントや、今後のニーズに対応するために必要なことなどを聞いた。(聞き手は、田中直樹)

――熱設計に要求されることが変わってきました。
熱設計はこれまで、「定められた温度環境で、最大電力を消費(発熱)した際に、各部温度が許容値以下になるように冷却機構を設計すること」と考えられてきました。最悪の条件下でも放熱できる十分な冷却能力を機器に与えることが、熱設計の使命だったわけです。
しかし、これを実現すると冷却装置が巨大化したり、コストが高くなったり、騒音が大きくなったりして、製品が成立しないことが多くなりました。いくら高性能のスマホでも、背面に大きなヒートシンクやファンが付いていたら売れないでしょう。多くの製品において、冷却コストの低減や軽量化の要求はますます強くなっています。
そこで、大きさやデザイン、軽量性を重視して、冷却能力は実装可能な最低限の能力とし、過酷な環境でハードな使われ方をして温度が上昇したら、機能を制限して温度上昇を抑える方法が一般的になっています。自動車や電車では、発熱量が一定であることは稀で、動作モードに応じて大きく発熱量が変動します。例えば、走行風でパワーデバイスを冷却する場合、走り始めは発熱が大きく風速が小さい状態のため温度が上昇しますが、定速モードでは温度は降下し一定になります。
このように、市場や環境の要求から「動的な熱設計」が求められており、これが最近のトレンドになっています。
こうした環境に呼応して、熱流体シミュレーションも定常状態の温度予測だけでなく、非定常解析が広く行われるようになっています。しかし、現段階ではそのためのインフラが十分ではありません。例えば、半導体部品のチップ温度Tjは直接計測できないため、表面温度Tcから「半導体パッケージの熱抵抗θjc」を用いてTjを予測しています。しかし、θjcは定常のモデルでしか使えません。
発熱が変動した際のTj変化をシミュレーションできるような「過渡熱抵抗モデル」のニーズが高まっています。こうした標準化活動がJEITA(電子情報技術産業協会)などを通じて業界として行われています。