日産自動車が開発したデザインレビュー手法 「Quick DR」が注目を集めている。その理由は、開発期間が限られる中で、不具合の発生を効率よく未然に防止できることにある。「技術者塾」では「開発者から学ぶ 日産の不具合未然防止手法「Quick DR」」〔2017年3月3日(金)〕の講座を開催する。講師は、日産自動車においてQuick DRを開発し、導入推進した同社技術顧問の大島恵氏と同社車両品質推進部主管の奈良敢也氏。両氏がQuick DRとは何かを解説する(注:日経ものづくり2013年1月号解説「短期間で効果的に問題を発見・解決するQuick DRを始めよう」を再掲載)。
─(6)から続く─
自動車開発の99%は従来の知見に基づいた変更だ。従って、従来の知見を有効に生かして改善するということは、効率的かつ創造的な開発行為と考えるべきである。だからこそ自動車や自動車部品は他の産業では考えられないような短期間で開発できる。全てゼロから開発するのであれば1つの車を開発するのに10年はかかるだろう。
こうした開発プロセスである以上、従来の知見に対して何を変えたかを明確にして、その変更による失敗を防ぐQuick DRが有効な不具合の未然防止手法となる。
以下、短期間で効果的に問題を発見・解決するQuick DRのキーポイント[1]〜[9]を改めて紹介する。
[1]変更点/変化点に着目
繰り返しとなるが、変更点/変化点に着目することにより効率的に問題点を発見することがQuick DRの狙いである。衝(しょう:正しさを判断するための基準、標準のこと)となる設計基準や市場実績、基準となり得る従来設計を考えた上で、基準となる設計と新規設計を比較して、変更した点や変化した点を正確に把握する。変更点/変化点に潜むリスク、すなわち不具合の芽を常に考える。これが新規設計の問題点を発見する近道だ。このような思考を普段から習慣付けることが必要であり、これができているエンジニアはQuick DRを違和感なく使いこなせるようになる。
変更点/変化点を考えることをサポートする有効なツールが変更点一覧表である。この表を活用し、基準となる設計と新規設計を比較して、変更点/変化点を整理することができればQuick DRは半分成功したようなものである。最初は基準となる設計は何か、新規設計での変更点は何かを整理することが難しいため、Quick DRの実施事例の指導会ではこの表の整理に主眼を置いている。
[2]変更点の組み合わせに注意
特に問題が起こりやすいのは、変更点/変化点が組み合わされた場合である。1つの変更では失敗しなくても、2つの変更が組み合わさったときに失敗することが多い。設計の指南書には、「材料と構造を同時に変えるな」とよく記述されている。これは2つ以上のものを同時に変更するときは、組み合わせによる問題が起こりやすいことを示唆している。