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小松技術士事務所所長の小松道男氏
小松技術士事務所所長の小松道男氏
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 軽量化や形状自由度の高さ、コスト削減といった従来からのニーズに加えて、ユニークな物性による機能向上のニーズをも満たすプラスチック製品。これを生産するには、射出成形技術とそれを支える精密な金型が必要だ。

 「技術者塾」において「プラスチック射出成形技術・金型設計製作の基礎理論」の講座を持つ、小松技術士事務所所長の小松道男氏に、プラスチック射出成形技術について学ぶ利点やポイントなどを聞いた。(聞き手は近岡 裕)

──射出成形技術・金型設計製作の基礎理論を、今、なぜ学ぶ必要があるのでしょうか。また、習得する利点を教えて下さい。

小松氏:私たちの生活は今日、プラスチック製品がさまざまなシーンで利用されています。軽量で強度があり、しなやかで変形が可能で、ガラスのように透明で豊かな色彩を放つ…。プラスチック製品がなければ、現代の生活は成り立ちません。そして、自動車やエレクトロニクス、航空機、食品、医療などの分野で使用される3次元形状の部品の大半は、射出成形法によって生産されています。そして射出成形法で必須の精密機械が金型です。

 これまで金属製やガラス製であった部品を、プラスチックに材料変更して軽量化を図る。複数の部品を一体化させた新構造の部品開発を行う。従来にないユニークな物性を発揮するプラスチックを使った画期的な新製品を世に送り出す。こうしたニーズが今、世界各国で次々と生まれています。これらのニーズをプロフェッショナルとして実現するためには、射出成形金型の開発立ち上げを手堅く行う必要があります。

 ところが、金型の実務的な開発においては、科学技術の座学理論だけでは対応が困難です。ものづくりの現場のノウハウや匠の知恵などを総動員し、総合的なエンジニアリング力を発揮することが求められています。金型や射出成形の世界には、“見よう見まね”でも参入することは可能です。しかし、入門時に「絶対に外してはいけない急所」を科学的な知識と実践的な理論によって理解できているかどうかで、1年後の姿には大きな差が生じると思います。

──射出成形技術・金型設計製作の基礎理論は、今後ますます必要とされるようになるのでしょうか。

小松氏:世界のプラスチック材料の生産規模は2011年時点で2億3500万tで、年率2~3%の成長を続けています。この中でアジアの比率は43%と推計されており、現在、成長の中心は日本を含むアジア地域です。一方で、欧州では国民1人当たりの年間プラスチック消費量の推計は136kgと多く、日本の108kgを上回っています。

 こうした原材料の生産規模の拡大は、射出成形品や金型の需要と密接に関係しています。アジアにおける旺盛なプラスチック製品の需要に対応するためには、高い品質と生産性を誇る日本の射出成形技術や金型技術が必要です。一方、人口減少が続く日本では、新製品の研究開発拠点としてのポジションの意味合いが強くなっていくものと思います。そのため、開発された成形技術や金型についてはアジアのみならず、北米や中米などへ輸出するビジネスモデルが徐々に増えてくるのではないかと私は考えています。

 生産規模の拡大の一方で、プラスチック産業はサスティナブルな(持続可能性のある)社会を目指すために社会から大きな変革を求められています。今日のプラスチック原材料の99.9%が化石燃料であることによるエネルギー枯渇や、非分解性合成樹脂による土壌や海洋河川環境への悪影響、廃棄物の燃焼処理による地球温暖化の問題などが指摘されています。

 こうした問題を解決する1つの手段として、植物などを原材料にするバイオプラスチックや生分解性プラスチックの採用が欧米を中心に急速に進んでいます。バイオプラスチックを新製品へ採用するための視点や、射出成形法、金型構造の開発など、本物の環境配慮製品を志向する企業では、未知の領域の技術開発が求められるようになるでしょう。射出成形時に発生するスクラップをゼロにするホットランナー技術、窒素などを超臨界状態で混合射出して独立微細発泡による軽量化を図る超臨界射出成形法、金型表面を急加熱・急冷却する温度制御技術など、欧米が日本より先行している領域にキャッチアップするためには柔軟な発想を持った技術者の育成が急務になります。

 ベテランの技術者がリタイヤしていく中で、若手エンジニアの育成が企業経営の喫緊のテーマとなっており、射出成形技術や金型技術の基礎理論の習得はこれまで以上に必要とされていくことでしょう。