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 こうした工程の単純化は変速機のケース以外でも行なわれている。ATの制御を担うバルブボディーは従来の32工程から1工程に、MT(手動変速機)のギアシャフトは8工程から4工程へと削減されているのだ。

 汎用機によって機械加工するメリットは、リードタイムを含めた加工時間の短縮だけではない。需要に合わせて生産車種を調整する場合、工作機械のラインはそのままで、生産物の種類を変更することができる。フレキシブル性が極めて高いのだ。

 新型車など新規の部品生産の導入も専用機を開発する場合、導入リードタイムは18カ月を要していたが、汎用機の場合、治具と工作機械のプログラムを開発するのが主な作業になるため、工程設計から試作まで2カ月で完了するほど効率が高まっている。しかも汎用機なので新規部品生産の導入コストも専用機に比べ94%も削減できたそうだ。トヨタ自動車ほどの生産規模であれば専用機を活用した方が効率は高いかも知れない。マツダは単純に大メーカーの生産方法に倣って生産効率を高めようとせず、自社にとって最適な方法を編み出しているのである。

 加工後は、そのままマシニングセンタにより加工部分の精度が測定できるインライン測定を導入している。治具の脱着作業が少ないこともあって、非常に高い精度も確保した。加工要素を大幅に削減し、単純化することでスピードと精度を高めているのである。

 でき上った変速機のケースにはレーザーマーカーにより2次元バーコードが刻み込まれる。鋳造時には機械打刻、さらに組み立て後と各段階で個体を識別するトレーサビリティーにより品質を管理しているのだ。さらに情報が蓄積されビッグデータ化することにより、金型や鋳造装置、工作機械の刃物などの消耗度合いも予測が立てやすくなり、さらなる生産の効率化とコストダウンが図れるようになると言う。

 ギア加工ラインは、変速機のケース内部に組み込まれるギアやシャフト類を削り出す部門だ。ギアはブランク材から形状を作る歯切り、そして表面を整えるシェービングを経て成形される。こちらも従来は4工程で仕上げていたが、モノ造り革新以来、2工程へと工程の単純化を果たしているそうだ。

 ギアの品質で特に重要なのは精度と騒音対策。ギアが噛み合うということは、ぶつかる箇所があるということ。そこで衝撃が振動となり、変速機あるいは車体のどこかがスピーカーになって騒音が発生するという。

 ギアは一定の割合で抜き取り検査を実施している。歯面検査は10項目で測定するが、ギア単体では音の発生までは測れないため、噛み合いの振動を計測することで判断している。さらにギアを削り出す刃物も摩耗状態を計測し、記録することでビッグデータ化しているそうだ。

 このギア加工ラインにはボブ盤の機械加工技能士で1級という国家資格を取得した技術者が幾人も揃っている。ギア加工ラインだけではない。工作機械を熟知し、各工程の製法に長けたスペシャリストが個々の作業を担っている。こうした人材が優れた技術でマツダ車の部品を作り、さらには新しい製法を生み出しているのだ。

 続く熱処理ラインは、成形が終わったギアやシャフトに熱処理を施して、表面硬度を高める工程を担うところだ。ここは立ち入り禁止区域、何しろ近くを通るだけでも輻射熱を感じるほど高温なエリアであった。

 そして、いよいよ変速機工場のハイライトとも言えるATの組み立てラインにたどり着いた。ここは変速機の種類ごとに必要なパーツをパッケージ化するキットサプライと、本体への組み付け前に部分的に組み立てておくサブAssyの2系統を経て、メインの組み立てラインへと進められる。

 驚いたのは想像以上にシンプルで人の手による作業が大半を占めていたこと。産業ロボットによる自動化が珍しくない時代に、一列に並んで一定作業ごと熟練工の手作業によって組み上げている。多板クラッチや油圧機構など複雑な部品を組み込む作業で、しかも同一ラインで4速から6速まで数種類のATを混流生産するには、手作業の方が効率が良いということなのだ。それには熟練工による凄まじいまでの手際の良さも前提条件になるのかもしれない。ちなみにシンプルな構造であるMTの組み立てラインも、構成としてはほぼ同様であった。

 前述した鋳造後の変速機のケースを加工ラインや組み立てラインへ運ぶのはAGV(自動搬送ロボット)の仕事であるし、変速機のケースの組み立て時には、複数のボルトを一気に規定トルクで締め付ける専用工具を利用している。自動化できるところは自動化しつつ、柔軟性を求める部分は従来とは違うアプローチで効率を高めている。こうして混流生産を実現しているのだ。

 さて、中関工場の最終ラインとなるのが検査及び出荷部門である。MTの検査では、測定機にMTを接続し、実際に運転することで規定の品質に達しているかをチェックする。それは機能面での品質検査、すなわち設計通りの強度や精度、効率などを確保しているかという従来の検査内容に加えて、運転者が操作した時にどう感じるか、変速時の感触や振動などを、繊細な感性をもつ検査員がチェックするのだ。

 こうしてマツダのクルマは燃費などの環境性能や安全性を高い次元で実現しながら、運転者の感性に訴えかける乗り味を作り込んでいる。

 「2008年から始めたモノ造り革新での一番の成果は、従業員全員の意識改革だと思っています」━━。防府地区工場長を務める向井武司執行役員のこの言葉に、中関工場が活気に満ちている理由が込められていた。近年のマツダ車の魅力としてエンジン技術やデザインに注目されることが多いが、熟練作業員による生産技術の革新があってこそ、それらが具現化できたのである。