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 スマートフォンやタブレット端末で必須のデバイスの1つが通信チップ(セット)である。無線LANやBluetooth、NFCのような近距離通信デバイスと、3G/LTEモデムのような広域通信の両者がセットで使われる(タブレット端末の場合は前者だけのモデルもある)。コンピューターの歴史は、古くから「情報」と「通信」の技術の並列した進化であった。いかにコンピューティング能力が進化しても、入出力に関わるデバイスが同時に高速化、高効率化、高性能化しないと、トータルの性能向上には至らないからだ。そのためメモリーストレージやディスプレーなどとのインターフェースとして、有線通信が進化を続けてきた。その結果、現在も多くの方式が混在のまま使われている。Serial ATA(SATA)やPCI Express(PCIe)、USB、HDMI、Ethernet、Low voltage differential signaling(LVDS)などさまざまである。

 そして2000年前後、世界規模で携帯電話の普及と相まって無線通信が一気に通信の主役に躍り出た。当時はほとんどの半導体メーカーが通信チップに取り組んだ。方式も地域によってまちまちだったことも理由である。2G(初代のデジタル)通信と呼ばれる方式では、世界で幅広く使われたGSM方式を筆頭に、国内ではPDC(NTTドコモ)やcdmaOne(KDDI)などが使われた。方式が乱立状況だったため、メーカー間のデータ通信が行えないなどの問題も起きた。

毎年ペースで進化する移動通信技術

 2000年後半に世界市場全体が3G(CDMA2000、W-CDMA)~3.9G(HSPAなど)が主流になっていく過程で、「通信チップを持つことが情報と通信の技術の両者で市場を支配できる」という機運が起き始める。ただし高度な通信事業を行うこととは、単にデバイスを用意することに留まらず、通信機能や品質の保証、ソフトウエアの整備など、ほぼインフラ構築に近い一大事業へと転じていく。またデバイス1つをとっても、単にベースバンド処理チップだけを作ればよいという状況ではなく、RFトランシーバーや電源IC、パワーアンプなどのチップセットまでを含めたトータルなソリューションを作ることが、通信キャリア(結果として市場)から強く求められていく。こうした要求に対して、技術変化の速度はほぼ毎年ペースとなるほどに早めてきた。WCDAM→HSDPA→HSUPA→HSPA→HSPA+→LTE→LTE Cat.3→同Cat.4→同Cat.6など、ほぼ毎年のペースでの進化を実現した。

 複雑化、高度化する通信チップを作るには、数百億円規模の費用を要する一大事業となるため、多くのベースバンド処理チップのメーカーは統廃合を繰り返すことになる。スマートフォンの市場拡大は、情報と通信の同時進化である。その両技術を並行して進化させることができるメーカーは絞り込まれ、2016年の段階では米Qualcomm社、台湾MediaTek社、米Intel社、中国HiSilicon社など数社に限られている。

 この数年でも、情報と通信の両方を手に入れることは、スマートフォン市場のみならず、広義ではIoTの端末側全般や今後来る5G世代でも主導権を握ることができるため、多くの半導体メーカーが通信チップへの参入を続けてきた。米NVIDIA社は情報のチップを持っているが、通信のチップを持っていなかった。そのために英Icera社を買収して通信チップ事業に参入した。米Broadcom社もLTE事業に参入のため、ルネサス エレクトロニクスの子会社だったルネサス モバイルの通信チップ事業を買収した。このように大手の市場参入が続いたが、どちらも実を結ぶことなく数年でLTEモデム事業の撤退を宣言している。