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ISSCC 2017のデモセッションでのテラヘルツ波通信の実演風景
ISSCC 2017のデモセッションでのテラヘルツ波通信の実演風景
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2つのアンテナを対抗させてテラヘルツ波を送受信する様子
2つのアンテナを対抗させてテラヘルツ波を送受信する様子
アンテナ間距離は20cm。データ伝送速度は最大80Gビット/秒。
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前回(ISSCC 2016)は6チャネルで105Gビット/秒だったが、今回はその周波数帯を1チャネルでカバー
前回(ISSCC 2016)は6チャネルで105Gビット/秒だったが、今回はその周波数帯を1チャネルでカバー
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前回(ISSCC 2016)と今回(ISSCC 2017)の送信回路の違い
前回(ISSCC 2016)と今回(ISSCC 2017)の送信回路の違い
今回は(1)キュービックミキサーをスクエアミキサーに、(2)LOリークキャンセル回路を追加、(3)擬似SSBミキサーを導入、などを実施した。
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キュービックミキサーとスクエアミキサーの違い
キュービックミキサーとスクエアミキサーの違い
スクエアミキサーは周波数逓倍が2倍止まりだが、損失が少ない。今回は約5倍、出力が大きい
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テラヘルツ波通信を宇宙通信に利用するイメージ
テラヘルツ波通信を宇宙通信に利用するイメージ
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 広島大学 先端物質科学研究科 半導体集積科学専攻 教授の藤島実氏の研究室とパナソニック、情報通信研究機構(NICT)は、無線周波数が275G~300GHzの、テラヘルツ波とも呼ばれる電磁波を送信する送信器ICを40nm世代のCMOS技術で作製。この送信器と受信器と送受信器を有線で直結した場合に通信チャネル1チャネルで105Gビット/秒のデータ伝送速度を実現した。2017年2月に開催された半導体集積回路の国際学会「ISSCC 2017」で発表した。

 藤島氏らは2016年2月のISSCC 2016でも32値QAMとキュービックミキサーを利用して、データ伝送速度105ビット/秒を実現したと発表している(関連記事)。

 ただし、送信器1基、1チャネルの周波数幅5GHzにおけるデータ伝送速度は17.5Gビット/秒。これを中心周波数を変えた6基の送信器、すなわち30GHz幅、計6チャネルを同時に用いることで105Gビット/秒を実現していた。1送信器の出力電力は約30μWだった。

ミキサーの変更で出力5倍に

 一方、今回は、送信器1基、1チャネルで105Gビット/秒を実現した。合計周波数帯域幅は従来の6チャネル分と同じ30GHzである。

 藤島氏によれば今回、1チャネルで105Gビット/秒を実現できたのは、送信器1基の出力電力を従来比10倍の約300μWに高めることができたからとする。

 ISSCC 2016では、送信回路中のミキサーに3倍逓倍器であるキュービックミキサーを利用していた。今回はこれを2倍逓倍器であるスクエアミキサーに変更した。これだけで、ミキシングの際の損失が低減し、例えばミキサーへの入力電力が5dBmの場合の出力電力は+6dB、つまり約5倍大きくなったという。

 この他、回路内部に位相を調整する仕組みを導入し、さらに局部発振器(LO)の漏れ(リーク)を低減する仕組みも導入した。さらに、「擬似SSB(Single Sideband:側波帯)ミキサー」と呼ぶ、イメージ波を抑制する仕組みも導入した。これらで出力電力10倍を実現したとする。

無線通信距離は20cm、データ伝送速度は80Gビット/秒

 ちなみに、105Gビット/秒というデータ伝送速度は、送受信器を有線で直結した場合の値。アンテナを介してテラヘルツ波の無線通信をした場合のデータ伝送速度は80Gビット/秒、無線通信距離は20cmである。また、この場合の受信器には化合物半導体ICで作製したものを用いている。

アンプを使えば宇宙通信が実現へ

 藤島氏は今回の技術の応用例として、第5世代移動体通信(5G)以降の局間通信や超大容量の宇宙通信を挙げた。

 移動体通信の局間通信には現在は主に光ファイバー通信が用いられているが、光ファイバーでは、物質中に光を通すため、信号の伝達速度は真空中の光速の約2/3しかない。テラヘルツ波通信であれば、ほぼ光速で信号を伝送できるため、伝送遅延が少なくて済むという。

 宇宙通信は、人工衛星を介して航空機でのGビット/秒級の通信や、月に建設したデータセンサーなどとの通信を想定する。ただし、実現するには、送信出力を10W級にする必要がある。「今回は300μWだが、これはアンプなしで実現したもの。化合物半導体の増幅器(アンプ)と組み合わせれば、送信出力10Wの実現が見えてくる」(藤島氏)という。