検討されている医療等IDのユースケース
医療等IDは最初に医療保険の即時資格確認として運用が開始される予定だが、山本氏は現段階ではこの他に圏域を越える地域医療連携の情報共有、法令で定められた非同意のデータベース結合、PHRの実現などがユースケースとして考えられていると説明する。
地域医療連携における情報共有では、「現在全国で200カ所以上の地域医療情報連携ネットワークが運用されているが、例えば長崎県のあじさいネットに加入している住民が岡山県に引っ越したときに、晴れやかネットに加入しても転居前の連携情報を閲覧できない」とし、2つのネットワークで利用される固有の患者IDをつなぐために地域医療情報連携用の医療等IDが利用される。
こうした転居に伴う医療情報の持続性維持もさることながら、山本氏は東京都のように複数の医療情報連携ネットワークが入り組んだ状況で存在している地域では、患者さんはどのネットワークに加入しているかを受診に際して考えないと指摘。「かかりたい医療機関のどこに行っても自分の医療情報を一元的に閲覧できる状態が望ましい。医療情報連携ネットワーク同士の情報共有のために、厚生労働省の推奨標準規格としてIHEのXCA(Cross-Community Access)が採用されており、この仕様とともに(地域医療連携用の)医療等IDがあると非常に便利だ」と述べた。
非同意のデータベースの結合では、医療レセプトと介護レセプトのデータ結合や医療レセプトと全国がん登録データの結合などが考えられるという。「医療介護連携の推進が唱えられながら、同一人の医療と介護のレセプトデータは統合的に参照できない。(医療と介護の一体的な施策を実行するうえで)両方のデータを突合できる方が望ましい」。
また、日本でがんと診断されたすべての人のデータを、国で1つにまとめて集計・分析・管理するための「全国がん登録」制度が2016年1月より開始されている。全国どこの医療機関で診断を受けても、初期診断や初期治療などの詳細な情報が一元的に登録されるようになったが、予後情報についての登録は不十分と指摘。「レセプトデータベースと結合することにより、がんは治らなかったがどういう医療が行われたか、医療のあり方をすべて収集できる。結合する価値があるかどうか調査したうえで、最適なガイドラインはどうあるべきか構築できる可能性がある」と述べた。