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“リスク管理の専門家”であり続けられるか

 続いて登壇したアクサ生命の松田氏は冒頭、デジタルヘルス分野の取り組みは保険会社にとって「ビジネスモデルの根幹に関わる」と指摘。その背景として、保険ビジネスの前提だった「人間の個体差を認めないという価値観」(松田氏)がデータ活用によって崩れることを挙げた。これまでは「40代男性」といったくくりでしか分類されてこなかった保険商品の対象を、疾患のかかりやすさなどの要素で分け、保険料をそれに連動させるといったことが可能となってきた。

アクサ生命保険の松田貴夫氏
アクサ生命保険の松田貴夫氏
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 こうした状況は、保険業界にとっては諸刃の剣でもある。疾患リスクを消費者が当たり前に知るような環境が生まれれば「保険会社はリスク管理のエキスパートとしての存在価値を失いかねない」(松田氏)からだ。こうした危機感から、これまでのように自ら(保険会社)をPayerと捉え、疾患リスクを黙って見ているのではなく、顧客をPartnerと捉え「健康な生活ができるように“おせっかい”をしていく」(松田氏)。具体的には、疾病予防や早期診断、最適な医療機関や医師、治療手段に導くサポートなどが保険会社の大切な役割になるとした。

 ここに向けて、顧客の行動変容につながるサービスをどのように実現するかが知恵の絞りどころだという。「デジタルに行動変容を引き起こす力があるかどうかを考える必要がある。予防できる病気とそうでない病気に対するアプローチの違いなども考慮しなければならない」(松田氏)。

 保険会社がデジタルヘルスに取り組むことの経済合理性については、前中氏と同様の見解を示した。「年間に約3000億円を費やしている給付金の10%を加入者が健康になることで削減できるとすると、それだけで300億円の原資が生まれる。これを疾病予防に再び投資できたら何ができるかを考えれば、デジタルヘルスの重要性は明らかだ」(松田氏)。

 これに続くパネル討論で両氏から印象的な答えがあった設問の一つは、保険業界の競争環境が混沌としてくる中で、保険会社にとってのライバルはどのような業種・企業になるかというもの。

 前中氏は、同氏の話でも触れた「Amazon.comやLINEが保険事業に本格的に乗りだすようなことがあれば脅威だ」とした。消費者がネット通販で購入する商品は以前はかなり限られていたが、今ではありとあらゆるものが対象。保険がそうした商品の一つにならないとは限らないと同氏は見る。「良し悪しは別として、いずれ保険会社が販売からは遠ざかり、(販売チャネルを持つ事業者に対して)商品を卸すマニュファクチャラーの立場になる可能性も考えなくてはならない」(前中氏)。

 松田氏は、消費者が自らの疾患リスクなどを把握し管理する時代には、保険会社がリスク管理のエキスパートであり続けられるかが課題だと改めて強調した。この観点からは、疾病予防や治療の「アドバイス能力が価値になる。そこに対する専門性を持った事業者が保険会社の競合になる可能性があり、例えば保健師のような存在がそれに当たるかもしれない」と話した。

■変更履歴
記事初出時、「加入者をPayerと捉え」とあったのは「自ら(保険会社)をPayerと捉え」でした。お詫びして訂正します。記事は修正済みです。