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自身のゲノム情報から最適な薬剤を選べる時代へ

 東大医科研が使うWatsonは、血液腫瘍領域を中心に2000万件以上の研究論文や1500万件を超える薬剤の特許情報、開発中の薬剤の情報などを学習している。Watsonはこれら過去に学習した論文データや薬剤開発情報と、患者の遺伝子異常の情報とを照らし合わせ、発癌・増殖に関わる変異と最適な分子標的薬を示す。

 この研究は、既に医師の診療をサポートするツールとして診療現場でも用いられている。治療方針の決定に関わる結果が得られた場合に臨床医に還元するという形で進められており、「共同研究を始めてから、1年余りで100例以上の症例を解析し、その10%程度でWatsonの解析結果を参考にした治療介入を行い、高い効果を得た」と東大医科研先端医療研究センター長の東條有伸氏は紹介する。

 そもそもゲノム中の遺伝子異常と予後、薬剤選択との関係は未解明なことが多く、AIを活用しようにも学習素材が不足している。そのため、現時点でWatsonが示す結果は、癌専門医から見ればあくまで参考情報でしかない。さらに多くの文献を学習し、Watsonの診断精度が上がれば、診療により活用できる形で結果を示せるようになる。そうなれば、癌患者の誰もが自身のゲノム情報から最適な薬剤を選べる時代が来るかもしれない。