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 「前に似た患者がいたけど、どの人だったかな」。参考のために過去の患者のカルテを見ようと思っても、精神疾患診療では、それがとても難しい。精神疾患患者のカルテの記載は自由記述文が多く、分量も膨大だからだ。しかも各医師の経験や考え方が書き方に反映されるため、同じ症状の患者でも文章は異なる。冗長な文章にもなりがちで、「膨大なカルテ情報が眠ったまま活用されていない」と桶狭間病院藤田こころケアセンター(愛知県豊明市)院長の藤田潔氏は指摘する。

 藤田氏によれば、3カ月の入院を3度繰り返した患者のカルテ情報を読もうとすると500分は掛かるという。300床規模の病院なら5年間の患者数は8000人に上り、有用な情報源になると分かってはいても、カルテを見直すことは現実的ではない。

 こうしたカルテの自由記述文から、精神疾患患者の入院長期化や再発に影響する因子を抽出できれば、予後を予測し、医師、看護師、精神医療ソーシャルワーカーがいち早く対処すべき項目を共有して早期退院や再発予防につなげられる。そう考えた藤田氏らは、日本IBM、大塚製薬と共同で米IBMのAIであるWatsonを活用し、精神科向け電子カルテ解析システム「MENTAT」を開発。2016年7月から稼働を開始した。

過去データ活用し先制医療へ

 MENTATとは、Watsonの自然言語処理能力を活用したシステム。Watsonが電子カルテにある経過記録や退院サマリ、看護メモなどの文章を解析し、そこから患者ごとに「未治療期間」「初発時年齢」「拒薬傾向」といった入院長期化や再発の予測に関わる60の要素を抽出(図4)。こうした情報を全て収納したデータベースをWatsonが自動で作成する。

図4 藤田こころケアセンターが日本IBM、大塚製薬と開発した精神疾患診療支援システムの概要(藤田氏への取材を基に編集部作成)
図4 藤田こころケアセンターが日本IBM、大塚製薬と開発した精神疾患診療支援システムの概要(藤田氏への取材を基に編集部作成)
精神疾患患者の電子カルテ情報は膨大だが、そのほとんどが文章で書かれたテキストデータで、過去症例との比較検討や予後・治療効果の推測などに活用しにくい。「MENTAT」は、IBM Watsonを活用してテキストデータから入院長期化や再発に関わる因子を抽出・データベース化し、新規患者の予後予測や治療計画立案に役立てるシステム。
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