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モラルハザードを危惧する声も

 解釈の明確化や診療報酬での評価により、普及への前進が期待される一方で、遠隔診療をめぐる昨今の盛り上がりぶりには「ブームではないかと思える節もある。遠隔診療は、その有用性を考えればぜひ発展すべきだと考えているが、(サービス事業者の)競争が過熱することで、医療の質がおろそかになるような事態を危惧している」(厚労省の関係者)との声も上がっている。「遠隔診療は、外来・入院・在宅と並ぶ、新たな医療のジャンルになるくらいの可能性がある。だがそのためには、医療としての質の担保が欠かせない。質を犠牲にしてもコストを下げようとするような事業者が現れ、“悪貨が良貨を駆逐する”ようなことがあってはならない」(同関係者)。

 遠隔診療を積極的に活用する立場の医師も、警鐘を鳴らす。新六本木クリニックの来田氏は、遠隔診療が診療報酬で評価されていない現状では「患者から見ると、遠隔診療は通院よりも便利でしかも安い医療に映りかねない。ならばもう通院なんてやめよう、という方向に患者が流れてしまうのは正しい医療の姿ではない。こうしたモラルハザードが起きないように気をつける必要がある」と訴える。

 新六本木クリニックでは、遠隔診療を利用する患者からは予約料を徴収し、対面診療よりも診療費が高くなるように設定している。これには経営上の理由もあるが、患者が遠隔診療というオプションに安易に流れることがないように、受療行動をコントロールすることも目的の一つという。

 遠隔診療に対して、医療現場が過度な期待を寄せるのも禁物だろう。「オンライン診療のオペレーションの構築にはある程度の時間がかかる。我々は医療機関へのサポートやコンサルティングでそれを支援している」とメドレーの島氏が話すように、遠隔診療の運用にはそれなりのノウハウが必要だ。遠隔診療というオプションがあっても、それを選ぶ患者が必ずしも多くないのが現状であり、「遠隔診療をいざ導入したが利用する患者は非常に少ない」という声も、現場からは上がっている。

京都府立医科大学 眼科学教室 特任助教で、日本遠隔医療学会 遠隔診療モデル研究分科会長/デジタルハリウッド大学大学院 客員教授の加藤浩晃氏は「学会活動を通じて、遠隔診療をめぐる医療制度の啓発や体制の整備、エビデンスの収集・構築を進めたい」と話す
京都府立医科大学 眼科学教室 特任助教で、日本遠隔医療学会 遠隔診療モデル研究分科会長/デジタルハリウッド大学大学院 客員教授の加藤浩晃氏は「学会活動を通じて、遠隔診療をめぐる医療制度の啓発や体制の整備、エビデンスの収集・構築を進めたい」と話す
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 このように、遠隔診療は医療の形態としてはまだ未成熟。多くの医師や患者にはその存在さえ意識されておらず、有効性や安全性、適切な運用が十分に理解されている状況にはない。京都府立医科大学 眼科学教室 特任助教で、日本遠隔医療学会 遠隔診療モデル研究分科会長/デジタルハリウッド大学大学院客員教授の加藤浩晃氏は「遠隔診療に関する理解は、医療現場を含めてどの方面でもまだ十分に進んでいない」と話す。2016年秋に始動した同分科会でも、遠隔診療の解釈など「医療制度の啓発」を取り組みの柱の一つに据えた。

 加藤氏は、遠隔診療に関する理解を深めていく上では「対面診療と遠隔診療のどちらが優れているかという“点”での比較に陥らないことが大切。対面診療に遠隔診療を組み合せることが、通院の継続率向上につながったり、通院の間の状態把握につながったりするという“医師にとっての技”とみなす視点が重要だ」と語る。

 鉄祐会の武藤氏も「外来と在宅、遠隔診療という形態にはそれぞれの良さがあり、どれが最も良いかという一元論では語れない。それらの組み合わせを、それぞれの患者の疾患や生活環境、経済環境に応じた“引き出し”として用意できることが大切だ。それを既存の医療のインフラにいかに組み込んでいけるかがポイントになる」と話す。遠隔診療は医療提供形態の一つのオプションであるとの考えから、医師と患者の間の距離が強調されがちな「遠隔診療」ではなく、「オンライン診療」という呼称を好む関係者も増えている。

 武藤氏はこう続ける。「遠隔診療は、可能性があるだけに大事に育てなくてはならない。政府や医師会を含め、多くの関係者がICT活用に積極的な今は良いタイミング。きちんとしたルールで遠隔診療を運用し、好ましい事例を積み重ねていく必要がある」。