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無作為比較試験でエビデンス構築へ

 遠隔診療がこの先、医療提供の一形態として定着するかどうかは、その安全性や有効性に関するエビデンスを医療現場でどれだけ蓄積していけるかにかかっているだろう。2018年度およびそれ以降の診療報酬改定に向けても、エビデンスの蓄積は重要なポイントになる。

 こうした視点に立ち、医療機関と事業者、自治体などが協力して、遠隔診療のエビデンスを構築する取り組みがここに来て本格化している。一部の疾患領域では遠隔診療の運用に向けたガイドラインづくりも始まり、現行の医療にいかに遠隔診療を組み込んでいくかの議論が熱を帯びつつある。

 東京女子医科大学とポートは2016年9月、「都市型遠隔診療」の安全性や有効性、経済性に関する実証研究を開始した(関連記事6)。本態性高血圧症(特定の原因によらない高血圧症)と診断された患者を対象に、年に1回の対面診療と6週間に1回の遠隔診療を受ける群と、1カ月に1回ほどの対面診療を受ける群で、家庭血圧値のコントロールを比べる無作為比較試験である。両群とも、無線通信機能付きの家庭用血圧計で週3回以上血圧を測定し、その値を担当医が定期的に確認して治療方針に反映する。実施期間は2019年3月31日までで、目標症例数は450例。

「スマートフォンやパソコンを誰もが使う時代になり、遠隔診療などの仕組みを医療に取り入れていく環境が整ってきた」と話す東京女子医科大学 高血圧・内分泌内科 教授の市原淳弘氏
「スマートフォンやパソコンを誰もが使う時代になり、遠隔診療などの仕組みを医療に取り入れていく環境が整ってきた」と話す東京女子医科大学 高血圧・内分泌内科 教授の市原淳弘氏
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 遠隔診療の安全性や有効性に関する研究は従来、後方視的(レトロスペクティブ)なものが多かった。今回はよりエビデンスレベルの高い、前向きの無作為比較試験に挑む。

 研究を担当する東京女子医科大学 高血圧・内分泌内科 教授の市原淳弘氏は「全国に約4300万人いる高血圧者のうち、約半数が医療機関を受診していないと推定されている。こうした患者と医療機関とのつながりをいかに持たせるか、という観点から遠隔診療が使えると考えた」と取り組みの狙いを語る。対面診療と遠隔診療を適切に組み合わせることで「対面診療だけによる場合よりも“濃密な医療”を提供できる可能性がある。遠隔診療群の非劣性はもちろん、場合によっては優越性を示せるのではないかと考えている」(市原氏)。

 実証では、安全性の担保にも留意する。家庭血圧値のコントロールを主要評価項目としながらも、動脈硬化や脳血管疾患イベントなどの把握を、遠隔診療群でもきちんと行えるかどうかを検証する。

 遠隔診療が医療現場にもたらす負担、つまり医療現場から見た遠隔診療の経済性を評価することも、研究の大きな目的だ。「遠隔診療がいかに有効でも、医療現場から見て経済的に割に合わなければ普及はしない。どれだけの数の医師と時間をつぎ込む必要があるかを検討し、(医師以外の)メディカルスタッフを含むチーム医療として取り組む必要性などを検証したい」と市原氏は話す。

 現在の悩みは、被験者が十分な数集まっていないこと。働き盛りで放置高血圧者となりやすい30~50代を主な対象とすることを想定していたが、応募者は20~30代が多く、その大半は研究の除外対象となる2次性高血圧症(特定の原因がある高血圧症)だったという。今後、患者組み入れの方法を見直すとともに、高血圧診療における目標血圧に達するまでの期間を評価項目とするなど、比較的短期間に遠隔診療の効果を検証できる研究デザインも追加で検討する。

 今回の研究は安全性や有効性に加え、経済性までを含めた検証を行う点で「日本の保険医療に合致した形の遠隔診療に関して、その基礎的なデータを集める取り組みになる。きちんとした形でデータを出し、診療報酬改定への要望などにつなげるとともに、ここで得た知見を次の新たな研究に生かす。遠隔診療の望ましいアルゴリズムやガイドラインの策定にもつなげたい」と市原氏は話している。