PR

2016年度改定で保険適用が開始

 重粒子線治療とは、患者に痛みを感じさせることなく、がんを“切らずに治す”手段。放射線治療の一種で、陽子線治療とともに粒子線治療と呼ばれるカテゴリーに属する。

 粒子線を用いたがん治療の強みは、腫瘍のある位置(体表からの深さ)に放射線強度分布のピークを作れること。これにより、X線に代表される光子線を使う放射線治療に比べて、周辺の正常組織に与える影響を抑えながら、腫瘍細胞だけをピンポイントで死滅させることができる。

 中でも、重粒子線治療は陽子(水素の原子核)よりも重い炭素イオンを使うことから、腫瘍細胞のDNAの二本鎖を切断できるなど、治療の生物学的効果が大きい。そのため、X線や陽子線では十分な治療効果が得られない症例にも効果を発揮できる。

 治療対象となるのは、前立腺がんや頭頸部がん、肝がん、肺がんなど多くの固形がんだ。特に、骨軟部がん(肉腫)や頭頸部の非扁平上皮がん、子宮頸がんのうちの腺がん、非常に巨大な腫瘍など、X線では治療の難しかった疾患が良い適用になる。照射回数は数回~十数回とX線治療よりも全般に少なく、治療は数週間で終わる。早期肺がんでは1回照射による治療も行われている。

 陽子線治療と同様に、保険診療と自由診療の混合診療を認める先進医療の対象となっており、患者が負担する費用は300万円ほど。2016年4月には、手術非適応の骨軟部がんの治療に対して保険が適用された(関連記事1)。重粒子線治療への保険適用はこれが初めてである。

全世界の治療施設数が2~3倍へ

 実は、重粒子線治療は日本のお家芸ともいえる治療技術である。放射線医学総合研究所(放医研、現在は量子科学技術研究開発機構 放射線医学総合研究所)が1994年、世界で最初に治療を開始。2015年時点までの世界の累計治療数の80%以上が、日本で実施されてきた。

 放医研が導入した重粒子線治療装置は日本を代表する重電メーカー4社、東芝と日立製作所、三菱電機、住友重機械工業が協力して開発したもの。以来、これらの企業が治療装置の技術開発や納入実績で世界の先頭を走ってきた。治療分野では後れを取ってきた日本の医療機器業界にとって、例外的に高い競争力を誇っている領域だ。

 ただし重粒子線治療はこれまで、ごく限られた数の施設で提供されてきた。日本で稼働中の施設は5カ所。重粒子線による治療開始時期が早い順に、放医研、兵庫県立粒子線医療センター、群馬大学 重粒子線医学研究センター、九州国際重粒子線がん治療センター、神奈川県立がんセンターである。

2017年10月に竣工した大阪重粒子線センター。大阪城のすぐそばにある(画像提供:大阪国際がん治療財団)
2017年10月に竣工した大阪重粒子線センター。大阪城のすぐそばにある(画像提供:大阪国際がん治療財団)
[画像のクリックで拡大表示]

 海外では、中国やドイツなどに稼働中の治療施設がある。それでも、日本の5施設を含めて全世界で10施設が稼働しているにとどまる。日本だけで10施設以上、全世界では50施設以上が稼働している陽子線治療に比べると後れを取ってきた。

 ところが、この状況が今、大きく変わろうとしている。今後5~10年で全世界の重粒子線治療施設数が2~3倍に増えそうな勢いで、建設やその計画が進んでいる。日本で2施設、海外で3施設が建設中。さらに全世界で13施設の建設が計画されている(関連記事2)。

 日本で建設中の施設の一つは、大阪市の中心部で稼働する「大阪重粒子線センター(仮称)」である。大阪国際がん治療財団が運営する施設で、隣接する大阪国際がんセンター(旧大阪府立成人病センター)などの医療機関と連携して治療を行う。治療装置は日立製作所が納入。既に2017年10月に竣工しており、2018年3月に外来診療を、2018年10月に重粒子線治療をそれぞれ開始する。

 もう一つは、冒頭で紹介した山形大学重粒子線がん治療施設である。2017年4月に着工しており、2018年度に治療装置の搬入を開始。2019年度中に治療を始める予定だ。

 国内ではこのほか、沖縄県や岐阜県で施設建設が検討されている。海外では、中国や韓国、米国などで建設やその計画が進む。米国は1990年代前半に開発をいったん断念し、以後は陽子線治療に注力してきたが、重粒子線治療への再参入を目指している。