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“近場で済ませる医療”から脱却

 先端的な要素を数多く採り入れる山形大学重粒子線がん治療施設。その実現を牽引するのが、山形大学医学部 参与/次世代型重粒子線治療装置研究開発室長で、国立がん研究センター名誉総長の嘉山孝正氏だ。脳神経外科分野の権威であるとともに、国立がん研究センターの初代理事長として同センターの抜本改革を推し進めた実績などでも知られる。

山形大学における重粒子線治療施設の実現を主導する嘉山孝正氏
山形大学における重粒子線治療施設の実現を主導する嘉山孝正氏
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 嘉山氏が重粒子線治療施設の構想を打ち出したのは、山形大学医学部長時代の2004年。「学生が地方から都市部に流れていく中で、若者に魅力を感じてもらえるような世界に冠たるものを山形につくりたいと感じた。大学に一流の教員を招くなどソフト面の努力も必要だが、それだけでは不十分。研究を含めて取り組めること、がん患者が今後ますます増えること、見た目にも強い印象を与えられることなどから、重粒子がん治療施設がふさわしいと考えた」と嘉山氏は振り返る。

 臨床医の立場からも、がんの“治療の窓(therapeutic window)”を広げる可能性を重粒子線治療に感じたという。がん治療では、遺伝子のドライバー変異に対する分子標的薬などが有効ではあるものの、メチル化や低酸素化などの要素が加わることで、そこからこぼれてしまう症例もある。「重粒子線治療はそうした症例にも有効で、がんの多様性に対抗する手段になる。かつて、脳外科医としてガンマナイフ(頭部に対する定位放射線治療装置)の存在を知った時には驚いたが、今やガンマナイフは当たり前の存在だ。重粒子線治療も、10年後にはごく普通の存在になっているだろう」。

 施設建設のための予算獲得などとともに嘉山氏が力を入れてきたのが、放射線治療に関する医療機関同士のネットワークづくりだ。東北6県と新潟県の大学病院や地域連携病院、計63施設を連携させる「広域がん放射線治療ネットワーク」の構築に注力。重粒子線や陽子線を含む放射線治療に関する地域の連携体制を整えてきた。これにより、各施設が窓口となって、重粒子線治療に適する患者を山形での治療にスムーズにつなげられるようにした。

 「日本の医療はこれまで、最も良い医療を選ぶことよりも、“近場で済ませる”ことが習慣になっていた部分がある。まずは地域レベルからこの状況を変えていき、日本の医療を世界へ羽ばたかせたい」と嘉山氏は話す。構築したネットワークを通じ、重粒子線治療に適すると考えられる患者の1/6ほどを各施設から受け入れられれば、年間500~600人以上を治療できると試算。これにより、経済性の観点からも健全な施設運営が可能になると見込んでいる。

 もっとも、がんには集学的な治療が求められ、重粒子線治療だけ事足りるわけではない。「がん治療は医療の中でも特に学際的な領域であり、あらゆる学問を総動員する必要がある。ゲノム医療を含むさまざまな医療を牽引するシンボルとしての役割を、重粒子線治療に担わせたい」と嘉山氏は話している。