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10年をかけて超小型装置を実現へ

 山形大学の取り組みが重粒子線治療の次世代を見据えたものだとすれば、次々世代に向けた技術開発も既に始まっている。価格とサイズが現行の1/10で、一般病院に設置できる重粒子線治療装置――。そんな意欲的な目標を掲げ、量子科学技術研究開発機構(量研機構)が始動させたプロジェクトがそれだ(関連記事4)。

「第5世代量子線がん治療装置の開発協力に関する包括的協定書」の調印式の様子
「第5世代量子線がん治療装置の開発協力に関する包括的協定書」の調印式の様子
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 同機構が音頭を取り、東芝と日立製作所、三菱電機、住友重機械工業がタッグを組む。放医研の世界初の重粒子線治療装置を共同開発した4社が久々に結集。2016年末に「第5世代量子線がん治療装置の開発協力に関する包括的協定」を締結した。

 10年をかけるこのプロジェクトでは、超伝導技術を用いた加速器や、イオンのレーザー加速などの技術を導入。設置面積10m×20mという超小型の重粒子線治療装置を開発する。炭素イオンに加えて、酸素イオンやヘリウムイオンなどを照射するマルチイオン照射技術も導入し、治療の生物学的効果も向上させる。現状では70~90%ほどの局所制御率を100%近くに高める狙いだ。

 まずは2022年をめどに、超伝導技術による加速器やマルチイオン照射技術を導入した45m×34mサイズの小型装置を開発。2026年には、超高出力レーザーでイオンを発生・加速させる技術を導入した10m×20mサイズの超小型装置の試作機を完成させる計画である。

 量研機構は、現行の重粒子線治療装置を「第3世代」と定義。これに続く第4世代、さらにその次の第5世代を開発するという意図をプロジェクト名に込めた。「外科手術を置き換えるとの期待を込めて、量子メスと名付けて開発する。(がんの転移巣を治療対象にできる)標的アイソトープ治療や、量子メスの免疫機能活性化効果などを併用することで、がん死ゼロ社会の実現も夢ではないと思う」と、プロジェクトを指揮する量研機構理事長の平野俊夫氏は意気込みを語っている。

 2017年11月17~19日に大阪市で開催された「日本放射線腫瘍学会 第30回学術大会」では、平野氏が特別基調講演に登壇。量研機構として戦略的に根治を目指す疾患として、難治がんの代表である膵がんを選んだと述べた。「量子メスを中心に、標的アイソトープ治療や分子イメージング技術を組み合わせて、膵がん克服を目指す」(同氏)。

 平野氏の言葉が示すように、他の治療との組み合わせに注目が集まるようになったことも、重粒子線治療の最近の大きな変化だ。今回の放射線腫瘍学会でも「粒子線・光子腺・BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)の融合」と題するシンポジウムが企画され、粒子線治療とX線治療を組み合せた治療などが話題にのぼった。

 今回の学会で特に高い注目を集めたのが、「免疫療法と放射線治療の併用 ―基礎から臨床へ―」と題するシンポジウム。放射線治療が、免疫の温存・活性化作用を持つことに着目し、がん治療を大きく変えつつある免疫チェックポイント阻害剤などとの併用の可能性を探るという趣旨である。重粒子線治療と免疫療法の組み合わせも候補になり得る。

 従来の治療と対立するのではなく、組み合わせによって最大の治療効果を発揮する。そんな発想のもとで重粒子線治療が活用される時代が近づきつつある。