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全症例を集積しエビデンスを構築

 この先、重粒子線治療が広く普及し、より多くの患者がその恩恵を受けられるようにするための課題は大きく2つある。一つは技術的な課題であり、量研機構のプロジェクトが掲げるような治療装置と施設のさらなる小型化と低コスト化だ。

 重粒子線治療施設の建設費用は、かつては300億円を超えていたが、最近では150億円前後の水準に下がってきた。陽子線治療施設の建設費用は既に50億円ほどにまで下がっており、重粒子線でもこの水準がターゲットになる。「陽子線では患者と装置メーカー、治療施設のいずれもが恩恵を享受できる状況が、米国などで生まれつつある」と山形大学の岩井氏は指摘しており、重粒子線でもこうした状況を目指す。

治療装置メーカーだけでなく、装置の使い手である治療施設もタッグを組んで重粒子線治療の普及を目指す。稼働中の施設を日本に持つ5機関による「全国重粒子線治療施設設立者協議会」が、2016年末に発足
治療装置メーカーだけでなく、装置の使い手である治療施設もタッグを組んで重粒子線治療の普及を目指す。稼働中の施設を日本に持つ5機関による「全国重粒子線治療施設設立者協議会」が、2016年末に発足
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 もう一つは、保険適用疾患の拡大など、医療制度上のハードルを克服すること。対象患者数が増え、治療施設にとっては経営健全化につながる。

 重粒子線治療の保険適用疾患は、現時点では手術非適応の骨軟部がんのみ(陽子線治療は小児がんのみ)。保険適用が決まる前の厚生労働省の先進医療会議では、粒子線治療を先進医療の対象から外すことさえ検討されていた。治療効果や安全性、費用対効果などに関して十分なエビデンスがないと見なされ、このことが保険適用のハードルとなってきた。

 こうした状況を解消することを目指し、ここにきて日本放射線腫瘍学会(JASTRO)が中心となって、粒子線治療の有効性や安全性に関するエビデンス構築の取り組みを本格化させている。このうち、重粒子線治療に関するものは大きく2つある。

 第1は、国内5施設における重粒子線治療の全症例のデータベース登録。5施設による共同研究グループ「J-CROS(Japan Carbon-ion Radiation Oncology Study Group)」で進めるもので、放医研が全施設のデータを集約してJASTROのデータベースに登録する(関連記事5)。このうち、各施設で先進医療Aとして行われる重粒子線治療については、2016年度からJASTROが定める統一治療方針に基づくよう求められている。統一治療方針に基づく全症例を前向き(prospective)に集積していく形だ。

 第2は、先進医療Bとして実施される多施設共同の前向き臨床研究である。現時点で対象疾患は4つ。肝細胞がん、I期非小細胞肺がん、局所進行膵がん、高リスク前立腺がんで、患者登録が既に始まった。